「1年後」
ニンゲンくんが眠りについた。
暗い部屋でボクはひとり、昔のことを思い出していた。
ボクを作った博士のこと。
そして、一緒に生まれた双子の片割れのこと。
ボクらが公認宇宙管理士の資格を得たのは2歳の時だった。
お父さん───いや、博士とボクら兄弟で試験を受けて、めでたくみんなで合格、これから頑張るぞ!
……そう思っていたのにね。
仕事について勉強しているとき、きょうだいが言ったんだ。
2つで1つのペンダントを作って、それを1年後、ボクらが3歳になったらお父さんにプレゼントしよう、って。
ここまで育ててくれてありがとう。これからも一緒にいようね。
次の誕生日を迎えた時、博士にそう伝えたくて、ボクもそれに賛成した。
いっぱいお話をして、勉強もして、笑って。
それはそれは幸せな日々だった。
本当に楽しかった。
きょうだいと話すのも、博士の膝の上でくつろぐのも、ごはんを食べるのも、一緒のベッドで眠るのも。
全部全部、大好きな時間だった。
こんな日がいつまでも続けばいいって思っていた。
だけど、そうはいかなかったんだ。
ボクらが3歳になる前、きょうだいは事故でウイルスに感染した。そのウイルスは侵入した機械のデータやプログラムをランダムに削除するもので、当時のボクらでは無力化できない代物だった。
データが消えて、プログラムが消えて、その度に激しい頭痛で苦しむきょうだいを、ボクは見ていることしかできなかった。
ボクと博士で必ず治すと決めたのに、なのに、最後までウイルスの排除ができなかった。他の宇宙管理士曰く、事故とはいえウイルスに感染した機械を使うわけにはいかないということだった。
うるさい!黙れ!生まれ方が違うだけで、ボクらには心があって、感情があって、そして愛だってあるんだ!
……だから、きょうだいと一緒にいさせてよ。
だけど、そう都合よく話は進まない。
ボクのきょうだいは、アーカイブ化───事実上の凍結状態に置かれることとなった。
アーカイブ管理士によると、本来なら即座にスクラップ行きのところを、温情でアーカイブとすることに決めたそうだ。
それでもやっぱり悲しいよ。
博士は「お父さん」と呼ばれる度に悲しそうな顔をするから、ボクはいつしかそう呼ぶのをやめた。
キミが目覚めなきゃ、元通りにはならないんだ。
だから、キミがいつでも目覚めて良いように、これ以上被害を増やさないために、ボク達は必死でウイルスを無力化する方法を探った。
とっても大変なことだったが、キミのためだと思えばどんなことだってできた。ボクも博士も、すごく頑張ったよ。
そしてついにウイルスの無力化に成功した。
いつか必ず、博士が生きているうちにキミを取り戻して、今度こそ博士───いや、お父さんにプレゼントを渡そう。
それができたら、どれだけ満たされていたのだろうね。
10000年前、ついに博士も永遠の眠りについてしまった。
きょうだいが揃う前に、ペンダントを渡す前に。
博士は行ってしまった。
ボクはひとりぼっちになってしまった。
仕事をして孤独をなんとか誤魔化していたが、ふとしたときにきょうだいと博士のことを思い出す。
思い出しても、何にもできないのにね。
……しかも最近、アーカイブ管理室にいるはずのボクのきょうだいがいなくなったことが発覚した。
元気なきょうだいにまた会いたい。
また名前を呼んでほしい。
一緒に話をしたい。
1年後、なんてわがままは言わないから、いつだっていいから、いつまでだって待つから。
必ず、元気でまた会おうね。
6/24/2024, 1:59:24 PM