【声が聞こえる】
「貴方はママの言うことだけを聞くべきなのよ。」
それが母の口癖だった。
「あの子とは遊んじゃだめよ。お母さんが変な人だもの。」
「小学校に上がったら勉強しなきゃいけないのよ、そんなんで大丈夫なの?」
「あの人ったら、この子のこと何にもしてくればいで。やっぱり、付き合うんじゃなかった。」
今思い返せば、僕は幼い頃から友達と呼べる人がいなかった。母から言われたことを素直に聞きすぎていたせいだろうと、そう思う。
そんな僕も大学生になり、今年で親元を離れた。会う人会う人、変わった人ばかりで、純粋に世界が広がって、考え方も広がった。
流石に、僕の根っこにある考え方は変わってないのだろう。けれど、久しぶりに会った母は、どうしてか、昔に見ていた母よりずっと子供っぽく見えた。
「貴方は私の言うことだけ聞いているべきなのよ。」
……
僕は気づいた。僕は今まで僕自身の声を聞いていなかった。
「あのね、母さん。実は、僕は……、」
【僕は、初めて僕自身の声が聞こえた。】
9/23/2023, 2:53:21 AM