秋月

Open App

放課後の、誰もいない屋上で最近始めた日課がある。差出人も宛名もないラブレターをよく飛ぶように折った紙飛行機にして飛ばし、誰にも届きませんようにと祈るのだ。
飛ばしたら飛んでいった方まで行って、回収するまで帰らない。……届いて欲しいけど、誰にも見られたくない。

そんなぐちゃぐちゃな気持ちを抱えながら今日も紙飛行機を飛ばした。そしたら、強い風が吹いて、いつも絶対に飛ばさない方向に浚われていってしまった。
「まって!」
そう、手を伸ばしてもすり抜けて、あっという間に見えなくなってしまった。
「嘘でしょ……」
早く、回収しないと。だって、あっちには書けない宛名の相手が住んでる家がある。
急いで、落ちたかもしれない場所までいった。道路の隅から、街路樹の上まで。見過ごすことのないように何度も、辺りが薄暗くなっても探し回った。

「よぉ、なにしてんだ?」
「! さ、探し物」
「ふうん、もしかしてこれか?」

そうやって見せてくれたのは、確かに探してる紙飛行機で。

「……それ、中身見た?」
「ん? いや、ついさっき見つけたばっかだし。見てねぇけど」
「見たい?」
「……まぁ、気にならないっていったら嘘になる」
「見ていーよ。もともと、お前宛のやつだし」

そうなのか? 何て言いながら、折り目を一つずつ開いていく指先から紙飛行機を奪い去りたい衝動を押さえて読み終わるのを待つ。

「……これ、お前から?」
「じゃなかったら、どうしてお前宛ってわかるの」
「そーだよな。……あのさ、スゲー嬉しい」

そう言ってはにかんだ顔が、今まで見たどんな顔よりも輝いて見えて思わず目をそらした。

「なぁ、俺も好きだよ。お前のこと、何時も目で追ってた。だから、俺の恋人になってくれませんか」
「そんなの、断るわけないじゃん!」

住宅街の道端ってことも忘れて、思わず抱きついた。届けるつもりもなかった思いが、風にのって届いて、両思いだったなんてこと、きっと他にはいないだろう。

4/30/2023, 7:12:01 AM