『無垢』
パパだよ、と夫が我が子に呼びかけるとパステルカラーのロンパースを纏った赤子はじっと声の主を見つめたあとに声を上げて笑った。
「うちの子がこんなにもかわいい……!」
「そうでしょうそうでしょう」
感動、と形容するしかない表情の夫はおそるおそる赤子の頬をつつき小さな手を大きな指に掴ませる。
「抱っこチャレンジはどうしますか」
「いやーまだ怖い!けど抱っこしたい……!」
「やりたいと思ったらやりどきです。レッツトライ!」
抱っこの経験値は抱くほど上がるという。産院の先生から習った方法を手取り足取り教えてみるが、どうにも危なっかしい。けれど自分もかつてはそうだったのだろうなぁと口出ししたくなる気持ちをぐっと抑えて見守ると、我が子は泣き出すでもなく大人しく夫の腕に抱かれてじっと顔を見つめていた。
「……私より抱っこ上手くない?」
「それはうれしい!けど緊張する!」
「緊張すると赤ちゃんにうつるよ〜。リラックス〜」
ゆらゆらと身体を揺らされる赤子は次第に眠たげな目をしてやがて穏やかに寝入ってしまった。夫婦で顔を見合わせて、そしてまた我が子を見つめる。
生まれたての無垢なる命は夫婦の宝。これからこの子は様々なことを見聞きしてやがてふたりの手を離れ、ひとりの人になっていくのだろう。
「世のお父さんお母さんがこどもの幸せを願う、って場面をテレビや映画で目にしてきたけど、これはほんとにそう思えるね」
「親になってわかることいっぱいあるねぇ」
いまだ眠る我が子からそろそろと離れてスマートフォンを持ち、自撮りモードにする。初めての家族写真はこの先ずっと胸に残り続けるように思えた。
6/1/2024, 6:18:34 AM