『「ごめんね」』
幼い頃、ボロアパートの一室のドアを蹴破った警察官に僕と妹は救け出された。母がごめんねとだけ言い残してこの部屋を去って数日経ってからのことだった。
ろくに食べ物を与えられていなかった僕たちは平均的な身長体重に育つまで長い時間を要した。その間に孤児院や行き遅れていた学校の世話になり、いろんな人の手を借りてどうにか大人になれた。グレずにここまで来れたのは妹の存在が大きかったし、妹もまた同じように感じていると思っている。
母の消息は未だにわからない。未だに、あのとき言われたごめんねの意味もわかりかねている。
「何がごめんねだったんだろうね」
「何回も考えたことあるけど、全然わかんないね」
母がよく吸っていたタバコを妹が吸っていたので1本もらって火を付ける。嗅ぎ慣れた臭いからは切り離せない思い出の香りがしていた。
5/30/2024, 3:28:16 AM