〈時計の針〉
待つのって、どうしてこうも時間が長く感じるんだろうか。コチコチと音をたてて、1秒ずつ時を刻む見慣れた部室の壁掛け時計を睨み付ける。
「早く、来ねえかな…。」
春高の終了とともに、高校での部活動は幕を閉じた。と同時に、高校生活そのものがほぼ終わった。高校3年生の冬なんて受験のための日々で、授業なんて学びを深めるものは無い。月に1度か2度、卒業式についての連絡のために登校するくらいだ。特に自分は昨年のうちに推薦で進学先が決まっていたために、大学での練習が入学に先駆けて始まり、高校との縁の薄れ具合が周りの友人たちよりも早いのかもしれない。高校生活にあまり未練は無かった。しかし、特定の個人に対しては、かなり未練があった。だから、呼び出したのだ。卒業式後の部室に。まだ来ないけど。
部室のドアを見つめて、まだ来ない相手のことを考える。何を話そうか、考える。
昨夜、ああでも無いこうでも無いと、頭をフル回転して、何度も画面上でメッセージを打ち直して、やっと送信したのは
『式の後、部室に来て。』
というたった10文字程度の言葉だった。
程なくして、短い振動とともに
『わかりました。』
と相変わらず素っ気ない返事が返ってくる。
高校2年の春に出会ってから共闘した2年間、毎日毎日なんてこと無い言葉を交わし、メッセージを送りあっていたのに、呼び出す一言を伝えることにこんなにも緊張し、了解との返事を得ただけで嬉しくてドキドキして胸が苦しくなっている自分が滑稽で仕方がない。
相手は何の呼び出しなのか、おそらく分かっていない。この突然の告白に対してどんな反応があるかなんて、自分だって想像が付かなくて。
ガチャ
「お待たせしてすみません。」
相変わらず、相変わらずの落ち着いた顔。でも少し慌てた様子で、かわいいな、嬉しいなと思う。
「全然、大丈夫!」
「あの、何かありました?」
「あのさ…」
ねえ、お前はさ、俺のこの気持ちに対してどんなふうに返してくれる?
2/7/2024, 7:47:02 AM