わをん

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『本気の恋』

デートの待ち合わせをすっぽかされ、もう帰ってしまおうかと思っていたところに現れた彼は他の女とデートをしていた。
「でもほんとは今日、彼女さんとデートだったんでしょ?」
「あぁ、あれは遊びの彼女。本命はおまえだよ」
タイミングよく、あるいは悪く私のことを話題に出してくれたので私は自分の置かれた立ち位置を知るとともに、私と約束していたデートの場所にのこのこと現れた彼の浅はかな言動に大いに幻滅した。恋はいつでも本気で立ち向かうものだと思っていたから、なおのことだった。
「ねぇ、」
本気で立ち向かっていた私は彼の前にわざわざ現れた。薄笑いを浮かべた彼は私と付き合っている間に私がどういう女なのかをどこまで知っていただろうか。
「あれ、まだいたんだ。ごめん今日でわかれて、」
彼の頬を鷲掴み、それ以上の言葉を遮る。彼の前ではかよわい女を演じ通していたから、まさか片手で吊り上げられるとは思ってもいなかっただろう。恐怖に引き攣り、助けて、と言いたげな顔を見ているうちに、私も彼もお互い本当のことを知ってはいなかったのだとはたと気づいて虚しくなった。力が抜けたことで地面に崩れ落ちた元彼氏に駆け寄るような女はいなかった。
「本気の恋って難しいな……」
ひとつの恋が破れて、情けなさとも悲しさとも判別のつかない涙が一筋だけ流れた。

9/13/2024, 4:06:56 AM