檸檬焼酎

Open App

ミーンミンミン、ミーンミンミン

肌に纏わりつく不快な空気と脳に響く蝉の声で目が覚めた。今は何時だろうか、とスマホを確認する。

AM 9:38
天気 晴れ 降水確率30%
気温 32.0℃

「32℃か……、最高気温は36℃……」

はぁ、と溜息が出る。

「今エアコン壊れてるのに」

ボロアパートのエアコンなだけあって大分前から調子が悪かったが、等々先日動かなくなってしまった。この暑さで空調が効かないのはきつい。下手したら熱中症になってしまう、そう考えた俺はLINEを開いた。

───

『今日そっちいくわ』既読9:41

『なんで?』9:44

『今日暑いじゃん』
『俺の家エアコン壊れてるから死ぬ』
『お前の家エアコンあんじゃん』既読9:45

『あのさ』
『なんでくるのが確定してるの?』
『前々から思ってたけどいつも勝手に決めるよね』
『私の意思とか関係ないの?』9:50

『そんなんじゃないじゃん』
『恋人なのにそこまで気使うの?普段から行き来してるじゃん』9:51
『なんでそんな怒ってんの?』9:53

───

既読がつかない。そんなに怒られるような言動だっただろうか?女ってのはよくわからない。こうして話してる間にもじわじわ汗をかいていて、じっとりと肌に張り付くシャツが気持ち悪いと、なんでこんな不快な思いをしなければならないんだと少しいらっとした。
少しでも暑さを紛らわすため、財布を手にしてコンビニへ向かうことにした。


ミーンミンミン、ミーンミンミン

「いらっしゃいませー」

自動扉が開き、途端に爽やかな空気が火照った体を冷やしてくれるのを感じた。アイスでも買おうと冷凍ケースのある方へ向かう。

「あ」

目に入ったのはチョコミントのアイスだった。俺は歯磨き粉みたいな味で好きじゃないが、彼女はこの味が好きらしい。夏が来るたびにチョコミントの商品が発売されるのを楽しみにしているのを知っている。楽しそうにしている彼女の顔を思い出した罪悪感が湧いてきた。
俺はチョコミントアイスとソフトクリームを手に取りレジへ向かう。


「ありがとうございましたー」

ミーンミンミン、ミーンミンミン

アイスを買いコンビニを出ると、先程までの空気とは裏腹にむわっとした空気が体にまとわりつく。

「やっぱ暑いな」

ジリジリと肌を焦がすような日差しが恨めしい。少し歩くといい感じの公園があった。少し休むことにしようと、俺は木陰のベンチに座りスマホを手に取った。

───

『あのさ』
『朝ごめん』
『お前の好きなアイス買ったから』
『話してくれない?』10:23

───

まだ既読がつかない。はぁ、と溜息を溢して先程買ったソフトクリームを手に取った。
ソフトクリームは少し溶けており、手に垂れてきて食べにくかった。

ピロン

通知が届いた。恐らく彼女からのだろうとすぐにLINEを確認した。

───

『考えたんだけど』
『私達もう無理だと思う』
『別れよう ごめんね』10:29

───

ボタッ

食べかけのソフトクリームが地面に溢れ落ちた。わらわらと蟻が集ってくる。頭に霧がかかったかのように何も考えられない。
何分たった頃だろうか。ぼーっと地面に落ちたソフトクリームを眺めていると、地面が滲み水玉模様が浮かび上がる。ぽつぽつと雨が降ってきていた。ぼんやりとする頭の中で、降水確率は低かったのにな、なんて薄っすらと思った。
いつの間にか、蝉の声は聞こえなくなっていた。

─やるせない気持ち─

8/24/2022, 2:10:08 PM