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156.『快晴』『神様へ』『届かぬ思い』



 このお話の主人公の名は、鈴木太郎。
 漫画とゲームが大好きな、ごく普通の小学生。
 一人前に勉強が嫌いで、人づきあいが苦手で、美人のお姉さんに心惹かれてしまう、どこにでもいる少年。
 ですがそんな彼に、誰にも言えない秘密がありました。

 ……彼は神様の生まれ変わりだったのです――


 ◇

「ゴミ拾いに行って来なさい。 
 そして人と関わり、人間界について学ぶのです」
「断る……」
 とある昼下がり。
 漫画を読み耽る太郎少年に、保護者であり同じ『神様の転生者』でもある拓真が用事を言い渡しました。
 ですが、太郎は間髪入れず断り、会話を打ち切ります。
 その態度に顔をしかめる拓真でしたが、あえて何も言いませんでした。
 太郎がこういった態度を取るのは、予想の範囲内だからです。

「いいのですか?
 『是非来てほしい』と頼まれているのですが……」
「今忙しい」
「漫画を読んでいるだけでしょう?」
「そうだよ。
 漫画で人間について学んでいるんだ。
 今は人間の免疫についてだね」

 ああ言えばこう言う。
 太郎は元神様ですが、中身は口答えの得意な人間の小学生のようでした。
 ですが拓真は怒ったりはしません。
 逆に『予想通り』と、口角を上げました。

「残念ですね。
 先方には断る連絡をしておきましょう……」
「……」
「本当に残念です。
 太郎の好きな、綺麗な大人のお姉さんがたくさん来ると――」
「行きます」

 こうしてゴミ拾いに行くことになった太郎少年。
 同年代より少しませている彼は、漫画よりも大人のお姉さんに興味津々なのでした。

 ところが――

「騙された」
 雲一つない、清々しい程の春晴れ。
 滅亡を企む邪神ですら計画を断念するほどの快晴の下、太郎は暗い顔で呟きました。

 太郎は、大人のお姉さんとの出会いに期待して、ここまでやってきました。
 たしかに大人の女性はたくさんいます。
 拓真は嘘を吐いていませんでした。
 しかし目の前の光景が想像とかなり違っている事に、がっくりと肩を落とします。


 というのも、その『大人の女性』と言うのが――
「あらー、可愛いわね。
 ひ孫の小さい頃を思い出すわ」
 かなりお年を召したご婦人だったからです。

「そ、そうですか……」
 元々人づきあいの苦手な太郎でしたが、年が離れすぎて何を話していいか分かりません。
 ご婦人の話にも興味はありませんでしたが、それを無視するほど非常識ではありません。
 笑顔を張り付けながら、ご婦人の話を興味があるふフリをして聞き入ります。
 そして、適当に相槌を打ちながら『はやく帰りたい』と、自分以外の他の神へと祈るのでした。

 しかし、それは届かぬ思い。
 他のご婦人たちも、太郎に話しかけようと虎視眈々と機会を伺っていました。
 これではゴミ拾いが終わった後も、解放される気配がありません。
 絶望に打ちひしがられる太郎をよそに、ご婦人のおしゃべりはまだまだ続きます。

「本当に可愛いわ。
 ねえ、うちのひ孫にならない?」
「それはちょっと……」
「あら、残念。
 私は、もう、ひ孫には会えないから……」
「え……?」
 急に顔に影を落とすご婦人に、太郎は息をのみます。

「それは、もしかして……」
「ええ、お察しの通り。
 あの子は、どこにもいないの。
 この地球上の、どこにもね……」
 その悲しそうな顔に、太郎の心は激しく揺れ動きます。

 太郎は神様です。
 見習いですが、少しだけ神様の力を使うことができます。

 この力で、目の前のご婦人を孤独を癒し、元気づけてあげられないだろうか……
 太郎は懸命に知恵を絞ります。
 ところが――

「太郎君、騙されちゃだめだ」
 ご婦人の隣から、夫らしき老人が苦笑いをしながら口を挟んできました。

「婆さんはこう言うがな。
 ひ孫はちゃんと生きてる」
「え?
 でもどこにもいないって」
「いないのは『地球上』であってだな。
 今、宇宙ステーションにいるんだよ。
 ひ孫は宇宙飛行士なんだ」
 太郎は驚いて、ご婦人の顔を見ます。

「ごめんなさいね。
 太郎君が反応が可愛いものだから、つい揶揄っちゃったわ」
 悪びれる様子もなく、茶目っ気たっぷりに舌を出すご婦人。

 それを見て、太郎はよくやく腑に落ちました。
 どうして拓真が、あれほど『人間を知れ』と口を酸っぱくして言うのか。
 その理由についてです。

(こういう食えない大人たちに騙されないように、社会経験を学べってことか……)

 こうやって人間は大人になっていくんだな……
 太郎がそんな悟りを開きかけていると、連絡用にと持たされたスマホがメッセージの着信を知らせます。
 太郎はご婦人たちに一言断ってから、メッセージを読みました。

『そちらは順調ですか?』
 送り主は拓真です。
 それを見て、太郎はすぐにメッセージを返します。

『経験豊富なお姉さんに、大人の階段を登らされました』

4/23/2026, 10:30:57 AM