「わたしにはね、パチパチと弾けているようにみえるの」
寒い寒いと手を擦りあわせながら言った彼女は眩しそうに目を細めていた。
日も落ちてほとんど夜に飲み込まれてしまった暗い空にイルミネーションはよく映える。街路樹に飾られたものは美しく色を変えながら夜道を照らし、店先に置かれた安っぽいものでも一点物のオブジェのように輝いている。
何をみてもどこにあっても美しいと思えてしまうこの季節と暗さに酔っていたのだろうか。それとも彼女と並んで歩けることに浮かれていたのか。急に発せられた言葉を理解できず、足を止めた。
もっと、こう。きれいだねとか、ロマンチックだねとかそういう感想を期待していた分がっかりしたような気持ちになったのだ。
「強い光が苦手でね、イルミネーションとかそういうのはじっくりみたことなかったんだ」
「あなたのいうきれいな景色をみられないことがね、うん。ちょっと悔しいし寂しいから嫌い」
数歩先でマフラーで口元を隠す仕草をみて、なんだかどうでもよくなってしまった。苦手だと口では言っているのに目線はいつまでも『きれいな景色』を見上げていた彼女に、何も言えなくなってしまった。
「うそつき」
離れた数歩分の距離をつめて、イルミネーションを遮るように彼女の前に立った。口下手で素直でない性格はお互い様だから、もういいや。
期待通りにいくはずがない。そんなのわかっていた。それなのに許せてしまうのはきっと、惚れた弱みなんだろうな。
【題:イルミネーション】
12/14/2023, 10:36:19 AM