22時17分

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さぁ冒険だ。
さっきからペン先は、このようにうずうずしていた。
A4用紙の真っ白な紙に、新たな色の息吹を吹き込めようと、動きたくて仕方がない。
自己の一部分をエナジードレインして、表現力を模したノンバーバルコミュニケーション。
さぁ行こう。前に。
そう言っているようにも思える。

けれどそれは間違いだ。
手の震え。そう、それでしかない。それ以上の意味はない。そう思い込もうとした。

少年は絵描きの真似事をしていた。
中学2年生の、冬。
透き通る象の形をしたガラス細工が表題だった。
デッサンをしようにも、そこまで絵は上手くない。
と自己評価は低い。自己評価シートでは全部の項目を「D」にしている。
「絵が上手いね」
そんなことはない。そう言えない自分。
同級生たちの意見に対して影のように引き下がり、俯き加減な己。沈没した沈黙……。

ネットに上げたことがある。
だが、すぐに非公開にした。
閲覧数が0から1になる前に、非公開にしたつもり。
おそらくたぶん。誰かに見られただろうけど、数字に反映してこなかったからノーカンノーカン……そう思い込もうとした。
公開ボタンを押したこと。それに関して、中学校生活を棒に振るような、緊張感が宿ってしまったのだ。
チャレンジしたのは自信を持つため。しかし――。
以来、心の中はぶるぶる震えている。得体のしれない何かに怯えている。魔物が棲んでいる。ネットに巣食う魔物が、心の隙間を縫って入り、やがてヤドリギとなる。
国語の教科書でそのような物語があるらしい。自己肯定感の低い少年ではあっという間に呑み込まれてしまうだろう。

それでも、何でだろう。
少年の意に反して、ペン先は震える。
払底したいと思ってる。無効化したい。
やりたい、やりたい!
少年の意思とは別に、ペン先は勝手に走り出した。
勇者の剣のように。たぶんきっと。地面からもう抜けていたのだ。
それに気づいてから、少年は吹っ切れたらしい。
ペン先についていこう、そうしよう、そうしよう。それが冒険の始まりだった。

2/26/2025, 9:55:55 AM