「心の天気模様を記しておくのはどうでしょう?」
と医師に提案された
日々の心の有り様を日記に記録しておけ、ということらしかった
自分の心の有り様を具さに記しておけるくらいなら、私はここへは来ていないだろうと心の中で呟きながら視線を一度も上げることなく頷いた
心からの笑いが出たら、微笑むことが出来たら◯をつけていこう…
まずはそこから始めた
来る日も来る日も日記は日付のみが淋しく記されたのみ
めくってもめくっても続くその空白が、更に私の心から笑みを奪っていく気配だけがそこにあった
日記帳が最後のページに辿り着いた時、日付を書き改めてその日記帳を再び使い続ける方法もあったけれど、それはそれで残しておくことに私には意味がある気がした
そこには何も書かなかった、何も書けなかったというその時の私の心模様を空白が物語ってくれている気がしたからだ
私がその時間を確かに生きていたという証でもある
日記帳が5冊目を迎える頃、初めての◯がひとつ付いた
翌日もまたひとつ付いた
その頃には自分の気持を言葉におきかえることの恐怖は薄れていたけれど、あえて言葉は書き沿えず、◯だけを残した
その頃から少しずつ、忘れていた心が感情を取り戻し始めた
◯の数は日毎に増えた
5冊のノート最後の日、ノートをパラパラ捲ると◯が嬉しそうに踊っていた
毎日書いていた◯が無意識に少しずつずれていたのだろう
私の心が描いたパラパラ漫画だった
そんな苦しい時間があったこと
まったく何も書かれていない4冊の日記帳
この存在が私の孤独の闘いを雄弁に語ってくれている気がする
『私の日記帳』
8/27/2024, 1:41:09 AM