やさしい雨音
雨が窓を叩きつけている。いくら叩きつけたって、おまえを迎え入れるために窓を開くのなんて、一割にも満たない余程の物好きかなにかだ。
雨戸の閉ざされた室内に、月の光も覗かない。ただ、心が軋んでいた。眠れない雨の日の深夜、センチメンタルになる準備だけが整っている。
自分が駄目なことはとうの昔に知っているはずで、それでも、誰かに指をさされるのは嫌だった。
結局、惨めな想いをしたくないだけだと気づいたのは、最近のこと。惨めという単語の正しい理由なんて知りもしないが、響きがジグソーパズルのように、嵌ってくれたから。
見て欲しくない、浴びるように賞賛を受けたい、存在を無いことにして、抱きしめてほしい。
フラッシュバックする、雨の日の記憶。それ自体はいつのものでも良い。過去であることが重要だった。
あの頃のわたしが、今のわたしをみたら、どう思うのだろう。惨めだ。
「あ、うあ」
今この瞬間、世界の中で枕を濡らしているのはわたしだけじゃないはずだ。誰かが命を絶とうとしている。生命が生まれて、誰かが喜んで、泣いて。だからどうした、わたしは何がしたい?
誰かに好かれるために、評価されるために、自分のやりたいことを偽るのは、やめておきたい。それだけだった。
随分やさしくなった雨音が聞こえる。雨足が弱まったらしい。今更優しくしたって、おまえの本性を知ってしまえば恐ろしくて仕方ないだけなのに。
雨の匂いが好きで、それをぺトリコールと呼ぶことも知っていた。
詩的な自分を馬鹿にしてあざけ笑う誰かがいる。自分だ。それは、今も。
雨がやんでいた。
あのとき、窓の戸を開いていたら、あなたと友達になれたのだろうか。
5/25/2025, 4:24:03 PM