「なあ、タンポポって食ったことある?」
「食わんだろ、フツー。雑草だぞ」
「いや、食えるんだって。天ぷらとか美味い」
「まあ、天ぷらにすりゃ大抵美味いけどな。わざわざタンポポは食わないよ」
「ばーちゃんがさ、たまに作ってくれたんだよな。他にも、いろんな雑草で」
「雑草って言っちゃってるじゃん。お前のばーちゃん、去年亡くなったんだっけ?」
「ああ、それから、食ってないな、雑草の天ぷら」
春風とともに、ばーちゃんのことを思い出した。
冬の寒さが終わり、春の暖かさが訪れる頃、よく田んぼのあぜ道を散歩してたっけな。
たまに付き合って一緒に歩くと、いつも、学校は楽しいかと聞いてきた。
まあまあだよって答える俺に、友達は大事にせんといかんよって。
分かってるって。友達は大事だよ。
今度一緒に東京に遊びに行く約束してるんだ。
「タンポポの天ぷらか。まあ確かに、一度食べてみたいかも」
「だろ?なかなかお店で食えるもんでもないしさ。東京に行ったって、食えるところはないんじゃないかな。」
「まあ、もっと美味いもん、いっぱいありそうだけど」
「何食う?俺、カツ丼が食いたい」
「カツ丼なんてどこでだって食えるだろ。なんでわざわざ東京で?」
「東京のカツ丼が食いたいんだよ。味が同じなら、これから東京に行かなくても食えるんだって思える」
「意味が分かんないよ。まあ、好きなもん食えばいいと思うけど」
学校帰りの道。
道端に、タンポポが黄色い花を咲かせている。
「これ、食ってみる?」
「やめとけよ。まさに雑草だぜ」
「お前、食ってたんだろ」
「それはさ、ばーちゃんがちゃんと調理してくれたから」
「生で食おうなんて言ってねーよ。ちゃんと天ぷらにしてさ」
「お前が揚げるの?俺は揚げ方なんか知らねーぞ」
「俺も知らねーよ。お前のばーちゃんに頼めたらよかったのにな」
貧しい時代があって、道端の雑草だって食べるしかなかったんだよ。
ばーちゃんはそう言っていた。
そんな時代は終わり、食材がスーパーに並ぶ現代になっても、それは思い出の味として心に刻み込まれていたのかもしれない。
そして俺も、飽食のこの時代にもう手に入らない味を求め続けているのかもしれない。
ばーちゃんの手料理の味だ。
「なあ、あの丘の向こうにさ、ばーちゃんの墓があるんだ。思い出しちゃったからさ、墓参りしてってもいいかな?」
「ああ、別にいいよ。ばーちゃんにレシピ、聞いてみよーぜ」
「答えてくれるかよ。でも、付き合ってくれてありがとな。ばーちゃんも喜ぶよ、きっと」
春風に吹かれて、ばーちゃんの墓を二人で掃除する。
墓の周りには、たくさんのタンポポが咲いていた。
「おお、食べ放題」
「何にも持ってきてないから、タンポポでもお供えしとくか」
「いいのかよ、そんなんで」
「いいんだよ。ご馳走だぞ、俺とばーちゃんにとっては」
「そっか。俺にもお裾分けしてくんないかな」
なあ、ばーちゃん、これが俺の友達。
学校でも、楽しくやってるよ。
だから心配しないで。
ばーちゃんがいなくなって、ホントはすげー淋しいんだけど、コイツがいるから何とかやっていける。
東京行ったらさ、土産買ってまた来るから、楽しみに待っててな。
春の風を受けて、辺りに咲くタンポポの花達が一斉に揺れていた。
まるで、嬉しくて身を躍らせているかのように。
3/30/2025, 2:51:00 PM