室井あきのり

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『私だけ』

僕は昔から他人の様子を伺う癖がある。手を力強く握っている人は、もしかしたら肩に力が入って緊張しているのかもしれない。逆に、大きく足を開き、胸を張っている人は少し横柄な性格なのかもしれない。そういう風に他人を観察する癖がある。

この癖を持った理由は自分でも正直分からないが、もしかしたら生い立ちに関係しているのかもしれない。小さい頃に僕の父親と母親は離婚をした。幼かった僕は戸惑った。しかし、別に悲しいとは思わなかった。離婚の理由は父親の暴力だった。僕は四人兄弟の三番目で、離婚した当時は小学一年生になったばかりだった。暴力は基本的に僕と僕の兄が標的だった。涙を流す日々が続いた。なので、離婚を聞いた日は正直に言うと嬉しかった。あの人ともう会わなくて済む、と。

それ以来、僕は他人の顔色や仕草を伺う癖が身についた。

ある日、僕は派遣バイトをした。その時に、少し横柄で怖そうな男の人が仕事を教えてくれた。僕は仕事を聞くのにも躊躇うほど恐怖を感じた。しかし、意を決して話しかけてみることにした。すると、案外笑顔の絶えない愛嬌のある人だった。人物像とは一見の印象だけでは分からないと、その時に思った。

7/18/2024, 2:37:45 PM