あなたがすき

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失っていく切なさを例うなら、きっと秋晴れ。

ゆっくり、ゆっくりと変わっていく。
ふと視界の隅で落ちた葉が、いつの間にか赤く染まっていることに気がついたりする。
よくよく目を凝らすと生き物たちの姿は影を潜めていて、おや全く見当たらないぞと心配すれば鈴虫が鳴いていることもままある。夏の涼しさを嘯く風鈴の音よりも真実澄み渡っている風の、なんと心地の良いこと。しかし夏のむせ返るようなじっとりした暑さも、過ぎてみれば案外恋しかったりもした。
秋は、なんだか寂しくて恐ろしい。
また来ると分かっていても、萎んでいく命が。
潤いを失った景色すべてが死んでいく季節のようだ。
命の違いをまざまざと思い知らされる季節。
置いていかれる季節。
そうして死の気配を呼びながらもまだ生きながらえようと足掻くように、空はまったく綺麗で仕方がないのだ。
それは切なくて寂しくて恐ろしくて、酷く美しい。
美しさは退廃と共にあるように、きっと秋には切なさが重要なのだ。それがなければ、とても死にきれないのだろう。
何もかも失っていくのにそれでも空だけは同じ色。
季節の死を養分に、秋晴れは咲く。



秋晴れ

10/18/2024, 11:12:25 AM