シーカシーナは、村から少し離れた所に住む牛飼の娘である。そばかすが散る鼻ぺちゃと雨が降るとくしゃくしゃに絡まる赤毛のくせっ毛には毎朝鏡の前で手こずっているが、平凡ながらも光が入ると琥珀のように輝く茶色の目は、自分でも結構気に入っている。
今、自分のその茶色を琥珀へと変えたのは橙の髪の精霊だ、雪解けの精霊、キャストペリン。
見上げるシーカシーナの頭上、何もない所をぽん、ぽん、と綿菓子が弾けるように跳んで、キャストペリンはまるで体重を感じさせない様子でシーカシーナの目の前に着地する。
自分の身長より長い樫の杖をくるりと回し、山高帽を脱ぎ、貴族の若君のように気取った仕草で一礼した。橙色に輝く髪が、さらりと音を立てて肩を滑る。
「ぼくのそばかすさん、一年ぶりだね。元気だった?」
「元気よ。会いたかった!」
笑う友人に勢いよく飛びつけば、りぃんりぃんと高くなる鈴の音と共に二人は空へ舞い上がる。
浮遊感と耳元で風を切る音に、わくわくと琥珀の両目を煌めかせて、シーカシーナは自分を抱くキャストペリンを見上げた。
「さあ、一年ぶりの旅の話を聞いてくれるかい?ぼくのそばかすさん」
「待ってたわ、春告さん。あなたの話をどうぞ聞かせて」
見る見るうちにシーカシーナの素朴な家が遠くなる。彼女が住む村、隣村、幾多の住処が広がる広い草原にその向こうを流れる大河、水の流れを裳裾のように翻す巨大な山脈。広大な景色を一望出来る空の中、雪解けの精霊、今はシーカシーナの友人のキャストペリンは、とてもとても嬉しそうに笑った。
君は今(僕の/私の腕の中!)
2/27/2024, 9:14:59 AM