今日の昼休憩の始まりはいつもと違って静かだった。
食堂に残っている人影はもうまばらだ。ミーティングが長引いて少し遅い時間になってしまった。味噌鯖にありつけなかったのは残念だけど、みぞれ鶏だって好物だから構わない。
配膳されたトレーを手にテーブルへ向かうと、奥の席から手を振るあなたが見えた。そんなに人の好い笑顔を向けられたら、ひょっとして私を待ってくれていたのかと期待してしまうじゃないか。
「遅くなっても、昼は抜かないだろうと思ってね」
確かに自分が食に貪欲な自覚はある。しかしそこを読まれているのは気恥ずかしい。
「待ってたんだ。少しでも顔が見られたらいいなって」
と、あなたは読みかけの本に栞を挟みながら言葉を重ねてくる。臆面なくこうも素直に好意を向けられると、こちらも素直にありがとうと返すしかない。
いつもと違う昼下がり。
何か新しい関係の始まる気配がした。
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「始まりはいつも」
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所感:
問)「あたかも」を使って文章を作りなさい
答)「冷蔵庫に卵があたかもしれない」
…的な、主題の軸をずらしていく言葉遊びも好物です。
今日はお題を否定形に振ってみました。
10/21/2022, 11:20:01 AM