どうしても溢れてしまうこの気持ちをどうすれば良いのか。ビターで薄ら寒いこの響を。
きっとこれも報いなのだろう。誰が悪い訳でもないこの世の不条理にぶち当たってしまった。人から逃げ、優しさに甘え、あまつさえそれを利用した。その消えない罪によって引き起こされた自業自得のカルマ。
私は決して許されない。許してくれる相手は消えてしまった。
母は認知症を患ってしまった。
大きかった背中はいつしか小さく曲がって行た。シワも増え、関節が痛むことがココ最近の悩みだったらしい。
私はそんなことすら気づかなかった。30年も毎日顔を見合わせ続けていたというのに。
寝室の前。軋む床材がなりやまない。バタバタと体を動かし意味もわからず歩き出す母に私はなんと言えばいいのだろうか。その光景を呆然と眺めるしか無かった。
いつしか私の頬に涙が伝う。クシャクシャになった感情のダムがついに崩壊してしまった。
「こんな息子ごめんなさい」
謝るしか無かった。
「親孝行のひとつできず」
息も絶え絶えで鼻水は垂れ流し、まるで泣きわめく赤ん坊のように母に縋った。
「ごめんなさい」
答えは求めていなかった。ただそれを伝えたくて。許して欲しくて。断罪して欲しくて。身勝手に泣き言を喚いた。
すると癖だからだろうか。母がぎゅっと抱き締め返した。スっと手を持ち上げ私の頭にポンポンと叩いた。
「大丈夫」
誰よりも優しい声で
「泣かないで」
誰よりも暖かい目で
「大丈夫、大丈夫だからお母さんがいるよ」
誰よりも厳しいことを言う。
私は一晩中泣くしか無かった
11/30/2024, 4:05:45 PM