思えば、俺の好みは周囲と多少ズレていたかもしれない。というのも元々外で遊ぶより図書室で本を読むのが好きな子どもだったし、そりゃ他よりもたくさんの本を読んでいたわけで、気がつけば挿絵のない小説へ、気がつけば一ページあたりの文字数も減り、高学年になったころには、小学生には難しい言葉遣いばかりの海外文学なんかに手を伸ばしていた。
そんなだったから友だちと本の趣味は合わなかったし、それで険悪になることはなかったが感想を共有できない孤独を抱えていた。おまけに、どういうわけか俺の選ぶ本は暗い結末が多いことも差を生んだ要因に思う。中途半端でご都合主義な救いで終わるくらいなら、道半ばで命を落としたものの本人は幸福の中で眠った、とかそういう救いの方が好みなのだと気がついたのはつい最近のことだ。
しかし、高校に上がるとひとりだけ理解者と呼べる友だちができた。俺が読んだ本はほとんど読了済みだったし、彼から勧められたものはことごとく俺の好みのど真ん中を撃ち抜いてきたのだ。ここまでの孤独に耐えたのはきっと、彼に出会うためだったのだろうと思うほど。
今思えばあのときの俺はおかしかった。どこか神秘的な雰囲気をまとった彼を信奉していたし、それは恋心にすら近かったと思う。それだけ彼の存在は俺の中で大きかったのだ。彼のためなら死んでもいいと本気で考えたこともあった。もしくは、そこまで他人を想う自分に酔っていたのかも。
終わりを告げたのは高校卒業と同時に。地方の大学へ進んだ彼と会う機会はめっきり減った。メッセージのやりとりは続けていたが、やはり顔を合わせて話すよりもずっと熱量が足りなくて満足できなかった。少しづつ心の底のマグマが冷えていく感覚に襲われながら、ついに我慢できず彼の進学した大学の近くまで電車を乗り継いでしまったことがある。
久々に見た彼の面影は変わらないながらも、隣にいる友だちらしき人に向けていた顔は全く俺の知らないものだった。あんな柔らかい、普通の人間みたいな笑顔、俺には見せなかったくせに。高らかに笑って人の腕を叩くような馴れ馴れしい仕草だって見たことがない。とても声なんてかけられなかった。
中途半端でご都合主義な救いが欲しいなんて生まれて初めて願ったよ。
『好きな本』
6/15/2024, 3:42:55 PM