cloudy
昨日から気温が急に下がった上に曇ったせいでとてつもなく寒い。朝はあんなに暑かったのにこんな寒くなるなんて罠じゃないの?!なんて悪態をついてみても気温は変わらない。これだけで良いわ、とノースリーブワンピースで出てきた数時間前の自分を恨む。羽織りは日除けだけじゃなくて気温調節にも良いわよなんて教えてくれた姉の言葉を思い返す。だってあんな真夏のあっつい時にも長袖の羽織り着てるような人の言葉なんて信じられる訳ないじゃない。見てるだけで暑苦しいわ。ふと冷えた風が足のスリットからも入ってきて肩を震わせる。なによ、風なんて吹くんじゃないわよ!寒いじゃない!怒りと共にヒールを鳴らす音を大きくしていると、ふと見知った癖毛が歩いているのが見えた。より一層歩くスピードを早めてその天然物のくるくるの茶髪に追いつくと、私が肩を掴むよりも先に彼が振り向いた。おそらく私のヒールの音に気がついていたらしく、誰が来るかは分かっていたと言わんばかりに落ち着いた表情で「おはよう」と挨拶をされた。眠そうな目は長いまつげを上下しながらもこちらを捉えている。
「おはよう。上着を貸しなさい。」
カフェでコーヒーを口にしていると、窓の外に上機嫌な妹が歩いているのを見つけた。横を歩くのはどこか不思議な空気を纏う人で、顔の雰囲気は綺麗で大人っぽいのに癖毛やら何やらで幼くも見える。噂には聞いていた彼の姿をまじまじと見る。話通りまつ毛長いわね、羨ましい。それはそうと、妹はあんな服持ってたっけ。家を出てからというもの服を貸し借りする頻度は減ったけど、それでもなんとなくの服の好みの感じは知っているからあんな落ち着いた茶色のシャツを持っているとは驚きだ。やたらと派手で露出の多い服を好む彼女で、むしろこの時期に長袖を持っているのがびっくりなのだけれど。彼女は長袖ばかりの私のワードローブに文句を言いつつも気に入ったものは我が物顔で持っていくことも多かったけど、私はというと借りれるような服が少なかったからああいうシンプルな羽織りがあるならありがたいなんて思いながら窓の外を見ていたら前の席に愛しの恋人が帰ってきた。
「ごめん、お待たせ。何見てるのー?」
「ん、あれ。」
「あ!妹さんじゃん。声かけなくて良いの?」
「良いの。デート中みたいだし。それにこっちだってデート中だし放っておける訳ないじゃん?」
「もうー…」
なんて言いながら呆れなんだか照れなんだかで顔を隠す姿がかわいくてこちらも笑みが漏れる。そういえばうちの妹でさえしっかり秋らしいシャツを羽織っていたというのに、目の前のかわいい恋人は今日も今日とて元気に半袖だ。
「…寒くないの?」
「え、全然。むしろ暑くない?」
……元気で何よりだ。
9/23/2025, 9:43:57 AM