ストック1

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わかってたよ
どこまでも行けるような気がしたけど、こうなるに決まってる
気持ちが大きくなってたんだと思う
じゃなかったら、戦おうなんて考えなかったはず
うっかり四天王最強を倒したものだから、魔王にだって勝てる、なんて思い上がってしまった
その四天王最強を従えるくらい圧倒的な強さだなんて、考えるまでもなくわかるのにね
魔王を倒せる実力の人間は、魔王との戦いで聖剣が現れ、聖剣によって魔王を滅ぼす
きっと聖剣に選ばれる、現れてくれる、なんて根拠のない自信を持った私が悪い
実際には、聖剣が出る間もなく簡単に致命傷を受けた
戦いにすらならなかった
仲間の顔が浮かぶ
ごめん、みんな
私はもう、ここまでみたい
せめて、魔王にひと傷くらいはつけてやりたかったけど、力の差がありすぎた
せめて、聖剣に選ばれる勇者が、すぐにでも現れることを祈ろう


…………
……


「どうした?
怖い夢でも見たか?」

いつの間にか眠っていた
目を覚ました私の顔を、お父様が心配そうに覗く

「うん
私が別の誰かで、その誰かがお父様に挑んで、負けて……死んだの」

今思い出しても、嫌な夢
夢とはいえ、お父様を殺そうとするなんて
夢とはいえ、お父様に殺されるなんて
でもきっと、お父様はただの夢だと笑い飛ばしてくれる
そう思ったのに、お父様はなぜか真剣な表情になった

「そうか
そろそろ頃合いか
……始めよう」

私にはその言葉の意味がわからなかった
始める?
何を?
お父様は私を、城の中の入ってはいけないと言われていた部屋へと連れてきた
そこは、夢で見た部屋
違うのは、大きな魔法陣が描かれていること

「ここは、何?」

お父様は答えない
私を見ながら、悲しそうな顔をして、なにかの魔法を発動した

「う、ああああぁぁぁぁ!」

頭が痛い!
何かが頭に入り込んでくる!
これは……記憶?
私は……そうだ、私は……

「……気分はどうだ……?」

「最悪……
あなたを殺そうとしたのに、転生させられて、娘として育てられるなんて……」

なんの目的で、魔王はそんなことをしたの?

「すまぬ
他に方法がなかった
我を倒せるほどの人間がいなかったものでな
長らく魔王城の魔素を浴び、強靭な肉体を得た今の君なら、我を葬る勇者となれるはずだ」

魔王は自分を倒す存在を育てた?
なぜ?

「そんなに死にたいなら、自害すればいいでしょ
なんでそんな回りくどいことを?」

「死ねないのだ
何度も死のうとした
しかし、魔王の血統がそれをさせぬ」

魔王によると、彼は人間と争いたくはなかったそうだ
しかし、魔王の血には歴代魔王の怨念が宿るらしい
魔王はそれに抗うことはできず、意思とは無関係に人間を滅ぼそうとする
だから子を作らず、自分で魔王の血筋を終わりにするため、勇者を待った

「だが勇者は現れなかった
だから、我のもとへたどり着いた君の遺体を作り変えて転生させ、ここまで育てた
素質はあるはずだと思って、な」

魔王の言っていることは、たぶん本当のこと
納得行かない部分もあるけど、私は魔王と再び戦うことにした
本当は、魔王を救いたい気持ちもあったけど、きっとそれは叶わないことなんだ
私ができることは、せめて、魔王の望み通りに殺すこと

「……わかった、私があなたを殺す」

「うむ、感謝する」

そう言うと魔王は私に、かつての愛剣を渡してきた
こうして、戦いの火蓋は切って落とされる
何度か打ち合って思う
あの頃とは違う
私は互角に魔王と戦えていた
体に力がみなぎるのを感じる
そして、運命の時は来た
私の持つ剣が輝き、聖剣へと変貌した
それをきっかけとして、私は一気に優勢となる
魔王は防ぐので手一杯
私は攻め手を強め、一瞬の隙を逃さず、致命の一撃を魔王に喰らわせた
魔王の体が力なく崩れ落ちる

「勇者よ、改めて、感謝する
我が呪われた運命も、これでようやく、終わる」

魔王は心底安堵した表情で、息も絶え絶えに言葉を発する
私は悲しい気持ちが溢れてきた
娘として育てられてきて、この人の優しさを知っていたから
だからせめて、最期は娘として接してあげよう

「さよなら、お父様
ゆっくり休んでね」

魔王は柔らかな笑みを浮かべると、そのまま眠るように亡くなった




「はい、勇者と魔王の物語はこれでおしまい」

「おかあさん、ゆうしゃもまおうも、すごくかわいそうだったね」

「そうだね
でももしかしたら、魔王はどこかで生まれ変わって、新しい人生を始めたかもしれないよ?」

「うん!
ゆうしゃだってうまれかわったもんね!
まおうはいま、どこにいるんだろう?」




「死ぬための人生なんて、悲しすぎるよ!
魔王城の魔素が私の体内にあるなら、魔王の転生魔法だって使えるはず!
うまく行けば血の呪いだって浄化できるかもしれない!
いや、してみせる!
絶対に生まれ変わらせるんだ!
今度は私がお母さんだからね!
転生したら、あなたの物語を話して聞かせてやる!
こんどこそ幸せにするから、さっさと可愛い赤ちゃんに戻ってよね!」

必死に魔力を練り続けて、限界が近いと思った瞬間、魔王は赤ちゃんの姿になっていた
赤ちゃんは大声で泣いている
ああ、よかった
うまくいったんだ
私は魔王だったその子を抱いて、話のわかる魔族に成り行きを話すと、城を出て人間界へと向かった
今度こそ、幸せになってもらわないと
いや、幸せにするんだ!

10/12/2025, 12:19:44 PM