もっと知りたい
家から徒歩十分の場所にバス停がある。
普段中々使うことのないバス停だったけど、春から高校生になった私は通学の為にこのバスを利用することになった。
そのバスに私が乗り込むと、何時も同じ学校の制服を着た垢抜けない感じの少し長めの髪をして、眼鏡を掛けている男子高校生が先に座っている。
夏休み目前となったある日の月曜日こと。
珍しくバスに乗り遅れそうになり、急いで半袖の制服に着替えた私は慌てて家か走り出した。
徒歩十分の距離とはいえ、到着する迄には着息切れと汗だくになりながらバスに乗り込む。
「おはよう! 同じ学年の|笠原麻衣《 かさはらまい》さん」
「あっ、うん、おはようございます」
突然、バスの中で声を掛けられた。
「同じ学年なんだから、敬語じゃなくてイイよ」
「う、うん」
そっと頭を上げると、目の前には同じ制服を着た何時もの乗ってる男子高校生がいる。
⋯⋯あれ、普段は挨拶すら交わさないのに今日はどうしたんだろ?
「はい、これ、笠原さんの落し物!」
「えっ、お、落し物!? 私の⋯⋯?」
「両手を出してみて」
「う、うん」
「はい、これ」
ポン!!
私の手に置かれた物を確認すると、それは生徒手帳だった。
「やだぁ、私ったら何やってるんだろ⋯⋯これ何処にあったの!?」
私ったら落としたことすら気付いていなかった。
「金曜日の朝に、バスから降りる時落としたのを僕が拾ったんだよ」
「えっ、そうだったんだぁ、あ、あの、どうもありがとう」
「いえいえ、本当なら、拾ってすぐ渡したかったんだけど、急いでたのか走って行っちゃったから声かけられなくてさ、それですぐ渡せなかったんだ」
「えへへ⋯⋯あの時は、朝一番に出さなきゃ行けない提出物があったから⋯⋯それで急いでて⋯⋯本当、拾ってくれてありがとう。 お礼に⋯⋯ジュ、ジュースでも⋯⋯」
「お礼は僕とデートにしてよ!!」
「えっ⋯⋯」
「あ、嫌ならイイよ! ジュースでも」
「だ、大丈夫です⋯⋯そ、その、デートで⋯⋯」
「じゃぁ、連絡先交換しよう!」
「う、うん⋯⋯えへへ」
こうしてその日は彼とメアドの交換をすることに。
そしてメアドの交換が終わると、彼はまた何時も通りバスの後ろから二番目に座って読書を始めた。
⋯⋯あれ、そういえばメアド交換したし、同じ学年って言ってたけど、名前聞くの忘れちゃってる。えっと、誰だったっけかな!?
交換したアドレスには|小宮山《 小宮山》とある。
⋯⋯小宮山くんかぁ。
自力で思い出せそうな気がしたけど、一学年七クラスもあるから結局のところ思い出せない。
⋯⋯バス降りたら何組の誰なのか聞こう!
そう思っていたはずなのに、バスの扉が開くとと、彼はササと歩いて行ってしまった。
⋯⋯もっと彼のこと知りたかったのにな。
メアド交換しているから聞けばいいだけの事だけど、自分から先に連絡することが中々出来ずにいた。
ところが、待てど暮らせど彼の方からも一向に連絡が無まま夏休みが始まり、そして終わりを迎える。
二学期になったら、またバスで会うから、その時にデートのことも聞いてみようなんて思っていたけど、始業式の日彼はバスに乗っていなかった。
こんなことは今日が初めてで、同じバスに乗っていないだけでどうしても彼の安否が気になってしまう。
色々知りたい思いが強くなっていた私は、居ても立ってもいられず、親友の|目黒円香《 めぐろまどか》に小宮山くんのことを相談してみることにした。
「ねぇ、麻衣が言ってる小宮山くんなんだけど、そもそも小宮山って苗字の子はこの学年には居ないよ!」
「えっ、でも小宮山ってメアドにはあったけど⋯⋯」
「あのさ、これは私が全部のクラスに確認したから本当だよ! ってか、麻衣は何を躊躇ってるのか分からないけど、そのメアドに連絡してみたらイイじゃん?」
「円香の言う通りだけど、私から連絡って⋯⋯」
「大丈夫だよ、麻衣から連絡したら、何か返信来るかもしれないよ」
「う、うん、そうだね円香、私連絡してみる」
ところが待てど暮らせど既読にすらならない!
もう諦めよう、そう思ってから二週間後のこと。
ふと、朝のバスの中で携帯をいじっていると一通のメールが届いたので確認してみると、小宮山くんのアドレスからで⋯⋯。
恐る恐るメアドを開いてみると、そこには病気の為に学校を辞めたこと、両親が離婚することが決まっていたので、交換したアドレスの名前が小宮山になっていたことが書かれていてた。
そして、四月から私に一目惚れしていたこと、病気が分かったのがメアド交換した次の日だったこと、そして本当にデートしたかったこと、私がデートをしてもイイとなった時心の底から嬉しかったこと等色々書いてある。
⋯⋯こ、小宮山くん⋯⋯
そして最後に、病気が治らないこと、余命半年だということ、そして、僕が生まれ変わった時はまた会いたいです。 サヨナラはしません、またね! また会おうね。
そう書かれていた。
その日から、私は先生に無理言って小宮山くんのことを教えて貰うことに⋯⋯。
初めのうちは何も教えて貰えなかったけど、私の熱意に折れたのか、先生が小宮山くんのお母さんに連絡をとってくれたのだった。
そして、小宮山くん本人からも会ってもイイと了解が取れて、私は小宮山くんが入院しているガンセンターにお見舞いに行けることなったのです。
「ひ、久しぶり! 笠原さん元気してた?」
「う、うん、私は元気してたよ」
「良かった、笠原さんが元気で!」
「えへへ、ありがとう! 小宮山くんは、その、今の体調は⋯⋯?」
「うん、今は笠原さんのこと見て元気になってる」
「良かった、あの、小宮山くん無理しないでね」
「無理はしないよ! でも、今はやっぱり笠原さんが来てくれたことが嬉しくて、無理しそう」
「ちょっ、何それ⋯⋯ねぇ、そういえば私のこと四月から気になってたんだよね⋯⋯それって本当?」
「そうだよ、もっと知りたいって思ってた。 そしたら、偶然生徒手帳拾っちゃって、あの時名前を知ったんだけど何だか嬉しくなっちゃって、拾ってからすぐ渡したかったって言ったのは実は嘘」
「嘘⋯!?」
「うん、あの時は嬉しくて持ち帰ちゃっんだよ。 ごめん」
小宮山くんは正直に私に色々話てくれるので、私も小宮山くん笑顔に惚れたことや、デートしたかったこと、バスに載ってなくて心配だったことや、もっと知りたいと思っていたこと等話した。
こうして、その日から、私たちはもっと色々なことを話すようになり、お互いの色々なことを少しずつ知っていくことになり、病院に行くことも小宮山くんがイイよと言ってくれたお陰で、私はほぼ毎日学校の帰りに会いに行った。
すると、余命半年と言われていた小宮山くんだったけど気付けば半年後、小宮山くんは退院することに。
「小宮山くん退院おめでとう」
「うん、笠原さんありがとう!」
お互いを徐々に知っていった私達は、今ではカレカノの関係になりました。 そして、小宮山くんはなんと私と同じ高校の一個下の学年に入り直して、今はまた同じバスで通学しています。
「将来僕が幸せにするからね」
「うん、よろしくお願いします」
そして来週は待ちに待ったデートに行く日!
今日も二人は元気でやてます!! えへへ!
――三日月――
3/12/2023, 12:42:24 PM