今日は怒られませんように。
毎日それを祈ってリビングに行っていた。それなのに、今日は違った。いつもだらしなく、ソファで寝ている母がいなかった。不思議に思って、家の中全ての部屋をのぞいたが、どこにもいなかった。安心する反面、どこに行ったのか不安になる。
とりあえず、学校に行った。何度かスマホに母からの連絡がないかを確認したが、なにもなかった。毎日、嵐のように暴れて疲れたら眠る人だから、いないと気持ちが楽だった。
母がいなくなった原因がわかったのは帰宅してからだった。警察署から電話があって、母が殺人未遂で逮捕されたという。特に驚きはなかった。あぁ、あの人ならやりかねないなと納得していた。警察署まで来て欲しいと呼ばれ、仕方なく出向いた。そこで会った母はまだ怒りの炎をメラメラと燃やしながら、何かをぶつぶつと呟いていた。それとなく話しかけたが、返事はない。
その後、事件の詳細と今後の流れを警察官から説明を受けた。まだ、高校生だった私は児童養護施設で面倒を見てもらうこともできると言われたが、断った。母がもらっている生活保護と、父からの養育費で生活できると思って帰宅した。
毎日、母が暴れ続けた痕跡がそこら中に残っていた。穴の空いた壁。破かれたカーテン。ひっくり返された机。その全てを一つ一つ丁寧に元に戻していった。直せないものはそのままにしたが、家の中が整うとこれまでにない、心に安寧が訪れた。
誰にも支配されない落ち着いた生活を手に入れた。
今までずっと荒ぶっていた心。これからの、今日の心模様はずっと遠くまで澄んでいて透き通った色をしていた。
4/23/2023, 1:50:14 PM