わをん

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『新年』

真夜中の神社に賽銭箱を先頭に長蛇の列ができていた。
「えっ、なにこれみんな初詣狙い?」
「うちら読みが甘かったね」
「甘すぎたね」
紅白が終わったあとのゆく年くる年はちょっとチル過ぎるということで近所にある大きめの神社の初詣一番乗りを目指したはずが、見積もりの甘さが露呈してしまった。けれどせっかく来たんだし、と妹と一緒に最後尾に並びに行く。スマートフォンによると新年まであと10分ぐらい。行列を観察してみるとお年寄りもいれば家族連れもいるし、若者もけっこういる。
「こうゆうの先頭の人いつから並んでるんだろね」
「紅白見なかったのかな」
「ワンセグで見たとか?」
「録画組じゃない?」
ああだこうだといつも通りの実のない話をしていると神主さんらしき格好のひとたちが拡声器でなにかを告げて、列が動き出した。それまで聞こえなかったお賽銭がかちあう音や跳ね返る音が聞こえてくる。初詣が始まったのだ。
「ちょっと前まで今年最後の、だったのが急に今年最初の、になるのウケるね」
「わかるー」
いつもより大きな初詣仕様の賽銭箱に、家の貯金箱に入っていたありったけの小銭をポケットから取り出して景気よく振りまく。二礼二拍手、今年もよろしくお願いしますと願って一礼。それから素早く列から離れる。
「おみくじ引く?」
「友達とまた来るから今はいいかな」
「じゃあ、帰ろうか」
「今年初帰宅だね」
やることなすことすべてに今年初をつけるムーブが家庭内でしばらく流行るのだろうなぁと笑い合って家路を急いだ。

1/2/2024, 4:55:44 AM