咲薇 葵

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【鏡の中の自分】

鏡の中の自分が好きだ。写真に写る自分は鏡の中の自分にどこか劣って気持ち悪いし、誰かといるときや一人でいる自分も気持ち悪い。鏡の中の自分を見ていると自分のしたい表情になれる。私はいつも鏡の中の自分が本当の自分になってしまえばと思う。そうすれば、私は私のことをもっと好きになれるのに。
 そんなことを思いながら生きていると、自然に背中を丸めて、過ごしてしまう。だから私には友達も彼氏もいない、だからといって、秀でた才能があるわけでも趣味があるわけでもない。それだから仕事での休み時間や家での空いた時間はひたすらスマホに向かっている。いつも通り私は家でスマホを見ていると、ある動画が目に入った。それは「自分の顔が好きになりたくて整形した結果」という動画だった。最初は何気ない気持ちで見ていたが、動画が進むにつれて私はその動画から目が離せなかった。やがてその動画が終わると、私は「整形がしたい」という衝動にかられた。しかし整形というのは、ハードルが高いし世間からの理解もまだ乏しい。だけど整形したい。そんなことを考えているとさっきの動画が垂れ流されているのに気付いた。私はまだ有り余る時間を潰すために他の動画を見ようとスマホの画面を下にスワイプしようとした。そうすると私の目にはコメント欄が目に入った。整形への後押しが欲しい訳ではなく、みんながこの動画をどう思っているのか気になって、私はコメント欄を見た。コメント欄には私が求めた以上のものがあった。「整形した人は自分の顔を好きになれるし、周りもかわいい子見れて嬉しいから整形はもっと世間に広がるべきでしょ!!」,「私この動画で整形することを決めました!整形したことで毎日たのしいし、友達も増えた気がするから迷ってる子はしてみてほしいな〜♪」とかっていうコメントがあって、整形は全く悪くないんだと気づいた。
 だけどそのためにはお金が必要で、貯金は元々あったが、それでも足りないので副業を始めた。数ヶ月も経てば目標金額がたまった。私はすぐに美容整形外科に行った。担当の先生としっかり話し、整形は成功した。整形している間、余っていた有給を使い休んだ。上司に1度叱られたが、私には必要な時間だと言い張りなんとか休みをとった。人にここまで歯向かったのは人生で始めてだ。これも整形のおかげだと思い、胸に喜びがわいた。整形をしたあと私は前を向いて過ごせるようになり、職場で友達もできた。友達との写真や自撮りなど沢山写真を撮った。私はその写真たちを見るのが好きだった。そこには、私の好きな鏡の中の自分がいたのだから。しかし次第にその写真たちを見るのが嫌になった。そこに鏡の中の自分は存在しなくなり、鏡の中にしか居なくなってしまったからだ。私はまた、整形した。そうするとまた写真が好きになった。だが直ぐに嫌になってしまった。私はまた整形した。こんなことを繰り返していくうちに気付けば、友達もお金も家もなくなってしまっていた。私の手にはどこで拾ったか分からないブルーシートと一枚の鏡だけだった。

11/4/2023, 7:54:44 AM