いろ

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【鋭い眼差し】

 資料を見つめる君の鋭い眼差し。声をかけるにかけられず困り果てていた侍女たちの姿を思い、私は小さくため息を吐いた。まったく、配下を無駄に怯えさせないでほしいものだ。ただでさえ怜悧な顔立ちをした君が眉を寄せて目を細めていると、近づいただけで周囲の全てを切り裂く抜き身の刃のような恐ろしい印象を受ける者も多いのだから。
「ねえ、そろそろ夕飯の時間みたいだけど。いったん休憩にしたら?」
 君の横から手を差し入れて、眼前でひらひらと手のひらを振る。ぱちりと一度瞳を瞬かせたあと、ゆっくりと君は私の顔を見上げた。
 鋭利だった瞳の色が、柔らかくほどけていく。甘やかで優しい、いつもの君のものへ。深い夜が刹那にして明けるようなこの瞬間が、私はいっとう好きだった。
「あれ? もうそんな時間?」
「そうだよ。集中すると本当に周りが見えなくなるんだから」
 朗らかな軽口を叩き合いながら、君の背を叩いて立ち上がるように促した。

10/15/2023, 9:52:04 PM