12歳の叫び

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フィクション【覆水盆に返らず】
蒸し蒸しと暑い夏――日本特有の嫌〜な夏。
親やクラスメイトに付けられた傷にジリジリと汗が染み込んで、身体中が痛い。
私、もう無理なのかもしれない。
ご飯が喉を通らない。上手く笑えない。手の震えが止まらない。楽しい記憶も今の辛さで黒く塗り潰されてないし、もう、死んでもいいんじゃない?
私の唯一大好きだった兄は、私が保育園生の頃、まだ小学四年生という若さで死んだ。それは私を保育園から引渡しに行く狭い通路を歩いている時、何者かに兄は刺されたからだ。
私が生まれた頃にはもう、最悪な家庭環境で、小さな頃から保育園に迎えに行ってくれるのは兄だった。
仲良く手を繋いで、笑顔で保育園の話をしていた所を刺された。
もし――もし私がどうでもいい話をしていなかったら?
もし私が手を繋いでいなかったら?
もし私が広い道から行きたいと言っていたら?
もし私が保育園に通っていなかったら?
もし私が妹じゃなかったら?
もし私が生まれてこなかったら――兄は死んでいなかった。

全部全部、私が悪くて、死ねば良くて、世界は悪くなかった。汚くなかった。私の心の方が汚かったんだよ。
グシャッ。

「……ここ、どこ?」
目が覚めると、青空の広がる空間にいた。なにもなくて、心だけがあるような。
まさか、天国? ふーん、なんだ。結構綺麗じゃないか。
「愛……?」
私の名前。
その名を呼んだのは――兄だった。
「お兄ちゃん……! お兄ちゃんなの?! 私……私! ごめんなさい! ごめんなさい! 私が悪いの! 私のせいだよ! 」
「愛! そんなこと言うな! 愛は悪くない。何も悪くないよ。俺は幸せだ、愛と会えてもっともっと幸せだよ」
「お兄ちゃん……。ねえ、ここは天国なの?」
私が兄に聞くと、兄は、質問には一切答えず、ポケットから小さな紙を取りだした。
「……っこれ。俺がサンタさんへ向けて書いた紙なんだ」

――さんたさんへ
さんたさん。おれに妹をください。たくさんあいをもらえる妹をください。たくさんかわいがるし、しあわせにします。きらいなままとぱぱよりも、ずっとずっとあいします。やくそくします。だいすきってたくさんつたえます!おれがままたちにしてもらえなかったことをたくさんしてあげます! てをつなぎます!やさしくします!おかしをわけてあげます!だっこしてあげます!ぎゅーってします!ちゅーします!ぜんぶします! ふゆより。

ポタッ。
私の涙が手紙に落ちた。
「お兄ちゃん……」
「全部俺のせいなんだよ。俺のせいで嫌な親の元で生まれて、愛して貰えない子に育って、幸せになれなくて、死んだ。全部全部おれのせいだ! ごめんね、ごめんね、俺のせいだよね。だから――」
兄は私のことを抱きしめた。温かいはずなのに、暖かくない。まるで、空気のように感じてしまう。
「こんな兄を許してください」
「……なんだ……。全部お兄ちゃんのせいだよ。お兄ちゃんがいなければ何が愛か知らないでいれた。お兄ちゃんがいなければ、これが普通なんだーって気持ちで生きれた。全部全部、お兄ちゃんのせいだよ……。お兄ちゃんのせいだ……。あぁっ! うわぁーん! お兄ちゃんのせいだ! やだよ! お兄ちゃん、一緒にいれるよね!離れないよね!愛してくれるのよね! 」
醜い。愛を貰える子供に劣等感を抱く。
「ここはね、天国さ。天の国。愛には愛の国で生きて欲しかったなあ……」
兄の姿が消えていく――溶けていく。
「なにそれ……。ふふ、お兄ちゃん……やっと幸せになれるのかな」
優越感に浸れる人間なんて、きっとここへ来たら泣いちゃうのかな。あははっ! そんなのどうでもいいか。
私も同時に溶けていった。
消えちゃうの?ここ、天国だよね。私、地獄……?

「冬に生まれたから名前は冬の兄に、夏と名前をつけようとした親を必死に止めて、愛という名前を兄に付けられた妹ねえ……。まあどうでもいいけど」
「どうでもいいって……! この子達には二人専用のお国をご用意致しますよ? 神様」
「だって事実だもの……。ふふ、まあ。かわいい子供達を最後まで苦しめる訳にも行かないね。アイツらはしっぱ作だわ。人殺しにでもして死刑にして地獄行きにでもしとくわよ」
「はあ……。初めからそういうことを言ってくださいよ」

7/13/2024, 1:57:22 PM