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『カーテン』

「ポアロシリーズの中でも『カーテン』は印象深い。最後の作品でもあるしね。

最初の作品の舞台スタイルズ荘で幕を開け、またその場所で幕を閉じるというのも、読者のセンチメンタリズムを煽る」

キミ、読んだかい?、と彼が振り返った。
頷いてみせると、なら話は早いと薄く微笑む。

「僕は常々思っていたのだけれど、名探偵というものは究極の孤独を抱え続ける精神力が必要なんじゃないかな。

人の罪を暴くという快感が得られる一方で、その罪を請け負わなくてはならない。

それなのに、往々にして褒められず、感謝もされず、疎ましがられ、時に罵声を浴びせられる」

なんともやりきれないね、と彼は窓辺でカーテンに手を伸ばす。

「僕は君の気持ちが痛いほどわかるよ。だって、僕たちは表裏一体なのだから」

ゆっくりと引かれる、血のついたカーテンを目で追ってしまう。


「だからもう、こちら側へおいで――名探偵くん」


10/12/2024, 9:08:20 AM