白糸馨月

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お題『だから、一人でいたい』

 クラスの目立つ女達に囲まれて
「あんたとアキトじゃ、つり合わないから」
 みたいなことをいっせいに言われた。当然だ。学年で一番人気がある男子と、クラスで孤立している幽霊みたいな女子が付き合うなんてありえないことなんだ。
 だから教室から逃げ出して、屋上へ行って一人ひざを抱えている。
 泣いていると、目の前に人の気配がした。でも、顔が上げられない。
「まなつ」
 親がつけてくれたネクラな私に似合わない名前でアキトくんは呼んでくれる。名前で呼んでくれるのは、学校ではアキトくん一人だけだ。
「わかれよう、アキトくん……」
「なんで」
「釣り合わないよ、私たち」
 自分が涙声なのが情けない。ちら、と顔をすこしあげると背が高いアキトくんがしゃがんでくれている。なんだか顔を見ることができない。
「私みたいにどこ行ってもいじめられる人とアキトくんが一緒にいたら、アキトくんの価値が下がるって……」
「それ、あいつらが言ったのか?」
「そう、だけど……一緒にいてくれるのがいまだに信じられない私もいて……」
 喉のおくがつっかえて、うまく言葉が出なくなる。学校ではできるだけ泣かないようにしていた。私が泣くと、みんなが笑うから。
「だから、私……一人でいたいの、ひ、一人にもどりたいの……」
 もうこれで思い残すことはない。いつもの一人だけの生活に戻るだけだ。私が存在しているだけでクラスでひそひそ陰口をたたかれ続ける生活に。
 そうしたら、急にアキトくんに抱きしめられた。アキトくんの腕のなかは温かい。
「そんな理由だったら、俺はやだ。俺は君のことが好きだから付き合ってるんだよ。笑うと可愛くて、君が繊細でやさしいことをしってからもっと好きになった。だから」
 アキトくんの腕に力がこもる。
「そんなこと言わないで。守れなくてごめん。なんか言うやついたら、俺が守るからっ……」
 声がふるえてる。この人は本当に私のことを大切に思ってくれてるんだ。そう思うと、こらえていた涙がせきをきったように溢れ出してきた。

7/31/2024, 11:53:08 PM