紅月 琥珀

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 最初はただのクラスメイト。それも私とは正反対の人で、きっと自分とは合わないって思ってた。
 私の家は凄く厳しい家庭で、学生の内は勉強以外、父が決めた部活動と委員会以外は認められなかった。
 流行りのファッションもヘアアレンジも許されず、メイクなんてもってのほか。やろうものなら引っ叩かれたと思う。
 基本的にお菓子も漫画もゲームもダメ。スマホは持たされてたけど、SNSやLINEは禁止。電話とメールだけに制限され、勉強に関連する事のみネット検索や動画サイトでの閲覧を許可されていた。それも、9時までで就寝は10時。それを過ぎるとすごく怒られる。朝は5時に起き学校には一番に着くように言われ続けていた。
 窮屈で退屈な私の傍に人なんて寄ってこないし、そもそも、友人も父が認めた人以外はダメだと言って相手に迷惑をかけるので、作りたくても作れなかった。
 そんな私に、何故か正反対の彼が良く話しかけてくるようになったのだ。
 最初は勉強についての質問だったから対応した。次第にプライベートな話をするようになり、私に何か不利益があると率先して助けてくれるようになったのだ。
 そんな事が続いたある日、私はずっと思っていた事を口にする。
『どうして私に優しくするの? 私なんかと一緒に居ても楽しくないでしょ。それに、父にバレたらあなたに迷惑がかかるかもしれない』
 でもあなたは笑って、自分が一緒にいたくてやっている事だと言った。そんな言葉を言われたのは初めてで、すごく嬉しかったのを覚えている。
 それから父にバレないようにこっそりと、私に新作のお菓子をくれたり、彼が訪れた場所の写真を見せてくれたり―――とても楽しかった。

 でも、その小さな幸せすら私には許されなかったみたい。
 唐突に告げられた終末の話。
 難しい理論とかは分からなかったけど、大きな隕石がこちらに向かっていて、宇宙空間で撃ち落としても地球上に存在する殆どの生物が死滅するかもしれない、と。
 元の隕石が巨大過ぎて、砕いても大きな欠片が降り注いでしまう距離にあるらしく、滅亡は免れないだろうという話だった。
 一か八かで撃ち落とすらしいけど、成功率は絶望的らしい。
 それから私は終末が訪れるならと、両親の言う事に逆らう決意をした。
 やりたかったメイク、気になってたファッション。行きたかったカラオケにゲーセン。読みたかった漫画も食べてみたかったクレープやアイスも、全部全部やりたいと訴え続けた。それでも父は頑なにやらせてはくれない。
 それどころか、もう未来がないなら学校にも行かなくていいなんて言い出して、私を閉じ込めた。
 だけど、あなただけは異変に気付いて私を助けてくれた。外に出してくれて、やりたい事全部やろうって。大丈夫俺が全部叶えるからって言ってくれた。
 それでも、既に心の荒んだ私は優しいあなたに酷いことを言ってしまったね。
『どうせ、全部終わるのに! あなたとも後数ヶ月でお別れしなきゃいけないのに、どうして私に優しくするの? 全部無駄になるのなら私最初から全部捨ててしまえばよかった!』
 もうやさしくしないで! そう泣き出す私に、あなたは優しく抱きしめて⋯⋯根気強くあやしてくれた。それが凄く心地良くて温かかったのを今も鮮明に覚えている。

『俺多分、君を凄く困らせる事言うけど許してね。どうせ終わるなら俺は最後まで好きな子と一緒に居たいんだ。一目惚れだったけど知っていく内にもっと好きになった。だから、君の最後の時間を俺に下さい』
 お願いします。なんて頭を下げた。
 酷い事を言った私のやりたい事にも嗤う事なく、全部付き合ってくれた。
 それから、もしも生き残れた時の為にってタイムカプセルを埋める事にして、今この手紙を書いている。

 あなたに謝らないといけなかったのに、言い出せなかった。
 あの時、やさしくしないでってそれ以外にも酷い事を言ってごめんなさい。
 本当は嬉しかったんだよ。
 あなたと一緒に過ごした時間は確かに私にとって特別なものでした。
 もしも生き残れてこれをあなたが読んだのならばどうか笑ってほしいです。
 でも、宣告通り2人とも死んでしまったのなら、生き残れた誰かが見つけてこれを読んでいるなら、私はあなたに憑いて行く事にします。
 優しい彼に死後会えるかは分からないけど⋯⋯2人で一緒に憑いて行って、沢山の見られなかった景色を一緒に見ることを許して欲しいです。
 長くなりましたが―――大切な彼と、これを見るかもしれない見知らぬあなたにとって、終末(せかい)が優しいものでありますように。


 偶々通りかかった崩れた学校の敷地内。
 何か役に立ちそうな物が無いかと立ち入った場所で、土の中から何かが少しだけ顔を出していたので取り出したら、中には手紙が2通入っていた。
 一通目を読み終えて辺りを見回すと、崩れた瓦礫に下敷きになった―――でも寄り添う様に息絶えてる男女がいる。
 恐らくこれは女の子の方の手紙だろう。
 男の子の方の手紙も読んでみたけど、すごくシンプルだった。

“もしも、2人で終末を生き延びれたら一緒に世界を旅しよう。
 出来れば結婚してくれると嬉しいな。
 まだ、行きたい所。やりたい事。あるなら頑張って叶えるから、ずっと一緒にいてほしい”

 本当に好きなんだなって思って、こんな酷い惨状なのに何故か心はほっこりしてしまった。
 だから私は、聞こえてるかも分からない2人に向けてこう言うのだ。
『私に憑いて来ても良いよ。3人で終末旅行を楽しもう!』
 そう言って少し学校を探索したけど、めぼしいものは無かったので早々に後にした。
 何処か野宿できる場所を探しながら、ふと思う。
 もしも私に幽霊を見る力があったなら、あの子達とも最初にあったあのおじいさんとも話せたのだろうか?
 そう考えてある事に気付き、やっぱり無い方が良いなって思い直す。
 だって優しい幽霊だけじゃなくて、怖い幽霊も見えたら嫌だもの!
 お話するのは私が死んだその時まで、楽しみにとって置くことにする。
 そんな事を考えながら崩れた街を歩いていく。
 何処までも続く瓦礫の森はとても静かで物悲しく、私の行く手に佇むのでした。

2/3/2025, 3:14:56 PM