悠久の時を持っている私でも、時間の大切さは痛いぐらいにわかるわ。
こう何年も歳をとると、外見は1ミリも変わっちゃくれないくせして、心だけ一丁前に時を刻んでは慈しむようになるの。
――不老不死というのは名ばかりで、感情と知性を併せ持って元々人間として生まれてた彼女は歳をとるという概念をとっくの昔から知ってしまっていた。――
いくら外見が変わらずとも心は歳をとる。
ふふ、こんな発見、世紀の大発見でしょうね。
でも、どんなに世界が轟くようなことが起こっても、人の世が終わってしまったこの地では、もうざわめくような混沌が起こることも無くなってしまったわ。寂しいものね。
だからこそ、私は毎日を大切にするわ。
今まで過ごしてきた日々は二度と訪れることは無いからね。
まぁ、でもこんなこと話しても、今さっき崖から落ちてきた人間じゃない貴方にはわからないでしょうね。
ごめんなさいね、身の上話なんかしちゃって。
あら、どうしたの。
家に帰りたいの?
残念だけど、もう真夜中よ、きっと今日は帰れないわ。
私の家で休んでいって。
一晩、泊めてあげるわ。
でもね、せっかくの久しぶりのお客さんであるあなたには、休ませてあげる代わりに一つだけ一緒にやって欲しいことがあるの。
いいえ、何も難しいことはないわ。
もう少しで日付が変わるの。その時間の少し前に私と一緒に同じことを思ってもらうだけでいいのよ。
二度と来ない今日へ、サヨナラってね。
簡単でしょう?
――不滅の彼女
お題【今日にサヨナラ】
2/18/2024, 2:38:09 PM