こし

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付き合ったのはたまたまだった。
親友に彼氏ができて、その彼氏の友達と私と四人で遊びに行くことになった。
「まだ二人で遊びに行くのは恥ずかしいからついてきて」って言うから、しぶしぶ出かけた地元のイオン。
わざとはぐれてあげて、二人きりになった時結構会話が弾んで楽しかったから、「俺らも付き合ってみる?」って。
それがきっかけ。
だから別に好きになってとかじゃない。
うちらも付き合ったらいい具合におさまるかな、みたいな思惑もあった。
でも、共通の趣味もあるし、喋るのは楽しい。
友達の延長みたいな付き合いだと思ってた。
今日kissするまでは。

一緒に帰った日はいつも私の家の近くの公園まで送ってくれて、そこのベンチでお喋りしてからバイバイするのが恒例だった。
今日もベンチで喋ってたら、いきなり彼から
「kissしていい?」
って言われて少しドキッとした。
でも、付き合ってるし、親友がキスしたのは聞いてたからうちらもいよいよかと思った。
「いいよ」
そっと言ってチラッと顔を見た。
いつもと違う表情だった。
びっくりしたような、困ったようなでも、嬉しさも滲んでいるような。そんな表情。
その後、顔が赤くなって、口も目も一回ぎゅっと閉じて。
それは一瞬で終わって、目だけ開けたと同時に私の両手を上から握って
「ありがと」
少し目を伏せたまま小さな声で言ってくれた。
その時点で私の心臓はギュッと一回り小さくなった気がした。
小さいまま、いつもより速く動くから呼吸が上手くできなくなって、握られた手も少し震えたと思う。
顔も上げられなくなってうつむいてしまった。

「じゃあ、するね」
そう言うからゆっくり顔を上げて、彼の顔を見つめて、顔が近づいてくるのを目で追ってた。
目の色が茶色い、まつ毛が結構長い。
唇少しカサついてる……
それを認識した途端耐えられなくなって、両目をギュッとつむった。

ふにっと唇に何か柔らかいものが当たった。
と同時に自分の顔のとても近くに熱を感じた。
何秒かは数えてないからわからない。
呼吸も止めてたのか鼻でやってたのかわからない。
でも息が苦しくなる前に離れて、握られてた両手がゆっくりとはずれて、つむっていた両目をあけた。

顔が見られない。頭の中が彼の初めて見た顔のパーツと柔らかい唇に支配されている。
それと、小さくなった心臓の動きと、酸素を求める肺に耐えられない。思い切り立ち上がった後、
「またね、バイバイ」

結局顔を見れずに走って帰ってきてしまった。
家に帰って鏡をみたら真っ赤で、息が荒くハアハアしていた。
こんな顔見せなくてよかった。
幻滅されたら辛い。
その時、スマホがふるえてLINEをしらせる。

〝ごめん、嫌だった?〟
〝俺はすごくドキドキしたけど、嬉しかった〟
〝キスしたらもっと好きになった〟

膝から崩れ落ちるかと思った。
そこで気づいた。
好きになってるって。
kissで気づくなんて、直接的すぎて恥ずかしいけど。

〝唇かさついててごめん〟
〝次までに治しとく〟

次があるんだ。
再び彼のカサついた唇が思い出させる。
頭の中がいっぱいになる前に返事をしよう。
嫌じゃなくて、緊張して帰ってしまったこと、
次があるって言われて嬉しかったことも伝えよう。
その後親友にLINEしよう。
kissってすごいねって。

2/4/2024, 2:05:13 PM