**「双極の正義」 - 続**
カイの行動が続く中、彼の次なる標的は一人の若手議員だった。表向きには国民のために尽力する善良な人物として知られているが、裏では闇取引に手を染め、権力を操ろうとしていた。彼の名はアルト。アルトは慎重な人物で、痕跡を一切残さず、表の顔と裏の顔を完全に使い分けていた。
ある夜、カイはいつものようにその邸宅へと忍び込んだ。しかし、今夜は様子が違った。邸内には既に厳重な警備が敷かれており、待ち伏せているかのように警察が配置されていた。
「罠か…」カイは冷静に状況を見極めた。
その中に、カイにとって見覚えのある顔がいた。リオだった。リオはようやくカイの行動を読んでここまでたどり着いたのだ。彼の執念が実を結び、ついにカイとの対峙が現実となった。
「ついに捕まえたぞ、カイ!」リオは息を切らしながらも鋭い視線でカイを睨みつけた。
カイは微動だにせず、ただ静かにリオを見つめ返す。「捕まえるつもりか? お前の父親のようにな。」
その言葉にリオの表情が一瞬歪んだ。「父を侮辱する気か! お前のせいで俺は…!」
「俺はお前の父を殺していない」とカイは冷たく言い放った。
リオの顔に疑念の色が浮かんだ。「何を言っている…?お前が…!」
「お前の父は、腐敗した権力に立ち向かっていた。俺と同じようにな。だが、奴らはそれを許さなかった。俺は彼を守ろうとしたが、間に合わなかっただけだ。真実を知るのはお前次第だが、今のお前は、父親が守ろうとしていた正義を歪めている。」
リオは困惑し、その場で足がすくんだ。父を殺したと思っていた男から、思いもよらぬ言葉が投げかけられ、心の奥底に隠していた感情が揺さぶられた。しかし、リオはまだ完全に信じられない。自分が信じてきた「正義」を見失うわけにはいかなかった。
「お前の言葉を信じるわけにはいかない」とリオは震えた声で言った。
カイはため息をつき、「信じなくてもいい。ただ、このアルトという男がどれほど汚れた存在か、自分の目で確かめるんだ。それが、お前の父の意思を継ぐことだと俺は思っている」と言い残し、カイはその場を去ろうとした。
だが、その瞬間、邸内から銃声が響き渡った。カイがすぐに動き出すよりも早く、リオはその音の方向へと走り出した。邸宅の奥にある書斎にたどり着くと、そこには一人の男が倒れていた。アルトだ。しかし、彼の脇にはカイが標的にしていたはずの犯罪の証拠が散乱していた。金の取引記録、偽造された契約書、そして裏で操っていた人物のリスト。アルトの顔には驚愕と恐怖が刻まれていた。
「こんなことが…」リオは呆然とその光景を見つめ、崩れ落ちた。正義を語り、国民を守ると言っていた男が、裏ではその正反対のことをしていたのだ。
その時、カイの声が静かに響いた。「リオ、お前が追いかけていた正義は、本当にこれだったのか?」
リオはゆっくりとカイの方を見上げた。その目には怒りでも憎しみでもなく、深い疑念と混乱が浮かんでいた。カイが言っていたことは真実だったのか?自分が信じてきたものは一体何だったのか?正義と悪の境界は、リオの目の前で溶けていくようだった。
「俺は…何を信じてきたんだ…」
カイは無言でリオの前に立ち、彼の肩に手を置いた。「正義は、時に形を変えるものだ。俺たちは同じ道を歩む必要はないが、今だけは、共に立ち向かうことができる。」
リオはゆっくりと立ち上がり、カイの目を見つめた。まだ全てを理解できていないが、一つだけ確かなことがあった。今目の前にいるカイが、自分にとっての「絶対的な悪」ではなくなっていたことだ。
二人は互いに静かな同意を交わし、新たな敵に向かって歩き出した。彼らの正義は異なっていても、共に戦うことで見出せる答えがあると信じて。
9/27/2024, 2:09:13 AM