百加

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微熱


 体が熱い。ひと月前からずっと背中がじりじりしている。微熱のような毎日。
 気になっている人が、席替えで後ろの席になった。

 好きな本が同じ。
 それからいつの間にか目で追って、耳をそばだててしまっている。
 すごく頑張ったから時々話はできるようになった。今はちょっとだけ仲が良いクラスメイト。

 ホームルームでプリントが配られ始めた。前の人から受け取ったプリントを後ろに回す。
 ただそれだけなのに、いつも手が震えそうになって息を止める。

「はい、これ」
 精いっぱい平静なふりをして、プリントを差し出す私の手と、受け取る彼の手が重なった。
 少しカサついて冷たい手。
 カッと体が熱くなった。全身の神経が手に集まったみたいで、じんじんする。心臓まで痛い。
 触れた手から発火しそうで、周りの音が一気に遠くなって、教壇の先生の言葉もまるで頭に入ってこない。
――こんなの私だけ。きっと気づいてもいないんだろうけど。

 ぼうっとしたままホームルームが終わり、潮が引くように皆が帰っていく。私も行かなきゃとカバンを引き寄せる。

「あのさ、」
 その声に私は弾かれたように振り向いた。立ち上がった彼が私を見下ろしている。
「なに……?」
 喉がカラカラで声が掠れてしまう。彼の唇がゆっくり動いた。

「手、熱いよね」




#100

11/27/2023, 6:06:30 AM