尾仁ぎり

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【moonlight】

街の光が輝くこの夜。月明かりの甘い光が僕を包みこむ。

僕は、夜の音が好きだった。
夜、ベッドに横になって瞼を閉じたとき、少し開けた窓から時折聞こえる車の走る音。街が眠った静かな夜の中、眠ってたまるかと抗い、まだ活動している者の存在を感じて好きだった。

だけど、眠れなくなってからは大好きだった夜の音が煩わしく感じるようになり、朝の小鳥のさえずりに焦燥感を覚えるようになった。

「無理に眠らなくていいんじゃない?」
君が僕にそう言うまでは。

眠ることが大好きな君にとって、夜遅くまで僕に付き合うことはどれほど大変だっただろう。だけど、君は「気にしないで」と笑って、僕が焦らないように、落ち込まないように、夜のこのひと時を楽しんでいた。

薄暗い寝室でスクリーンに映して映画を見た。ふかふかの布団と君の手の温かさに安心した。
温かいココアを一緒に飲んで夜の街を眺めた。冷えた心をココアの甘さと君の笑顔が溶かしてくれた。

そうして君と過ごしていると、ひどく安心して不眠に悩まされていたのが嘘のようにゆっくりと眠りに落ちることができた。

「今日も眠れない?じゃあ、ドライブしようよ」

今日も君は嫌な顔ひとつせず、僕に笑いかけた。

君を助手席に乗せ、静かな夜に出かける。スウィングジャズを聴きながら、あてもなく夜の街走り出す。
大好きだった夜の音の一部になった心地よさと、ジャズを口ずさむ君の歌声がくすぐったかった。

街の光が輝くこの夜。月明かりのまばゆい光が僕らを包みこむ。今日もよく眠れそうだ。

10/6/2025, 8:53:15 AM