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愛はひとりでも耐えられるけれど、恋はとても耐えられないことがわかった。

そのことに気づくのに、70年の月日をかけてしまったわけだ。本当に、ひどく長生きをしてしまった。


──最後に、私を描いてほしいの。


あの日、君からの頼みを断ってしまったとき、君のみせた寂しげな微笑みが、今でも冷たい石のように深く沈んでいる。

小さくて美しい、光のバレリーナだった。脚を怪我して踊れなくなってしまった君は、絵の中でもういちど踊りたかったんだろう。

僕はおじけついたのだ。僕が踊り子の絵を描くのは、それがよく売れるからだ。

ただ生活のためだけに踊り子の絵を描き続け、皮肉にも『妖精の画家』なんて呼ばれもついた人間が、君のまばゆさを描くには値しないと思っていた。


──私、もう踊れないけれど、あなたの絵のなかでならきっと本当の妖精みたいになれると思ったの。


その後すぐに、パトロンに身を買われて表舞台から消えた君と、再び逢うことはついに叶わなかった。

それからも、踊り子の絵は飛ぶように売れた。
僕の名はサロンで知れ渡り、今日にいたるまで確固たる地位を築き上げた。

でも、今だに君の絵は描けていない。リウマチになった僕の手はもう筆を握ることはできず、僕にとって、君は人生最期の光になった。
いつまでも未完の妖精なのだ。

そして僕は今日もひっそりと、君の墓に花をやる。

5/18/2023, 10:32:33 PM