一輪のコスモス
秋の風が、静かに校庭を撫でていた。
放課後の教室に残っていたのは、僕と、窓際に座る彼女だけだった。彼女は転校してきてから、誰とも深く関わろうとしなかった。けれど、僕はなぜか彼女のことが気になっていた。
「ねえ、コスモスって好き?」
突然、彼女がそう言った。
「うん、嫌いじゃない。なんで?」
彼女は窓の外を見ながら、微笑んだ。
「私、コスモスみたいな人になりたいの。風に揺れても、折れないで、静かに咲いてるでしょ?」
その言葉に、僕は何も返せなかった。ただ、彼女の横顔が、夕日に照らされて淡く輝いていたのを覚えている。
数日後、彼女はまた転校することになった。理由は誰も知らない。僕は、彼女が最後に残した机の中に、一輪のコスモスが挟まれた手紙を見つけた。
「ありがとう。あなたと話せて、少しだけ咲けた気がする。」
それから何年も経った今でも、秋になると僕はコスモスを見るたびに、あの日の彼女を思い出す。
風に揺れながら、静かに咲いていた一輪のコスモス。
お題♯一輪のコスモス
10/10/2025, 12:51:02 PM