わをん

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『また会いましょう』

私の体はいつ大人になるのだろうか。私が幼子であるから神様は私に懸かってくれる。そのために力を使うこともできる。けれど、私はお役目から少しでも早く離れてあのひとと一緒になりたかった。
「戦に出ることになりました」
私に跪いて別れを告げるそのひとの顔は私が泣くのを耐え忍んている顔を見るとさらに悲嘆に暮れた。私にはわかっている。これが最期になってしまうことを。行かないでほしい。私を攫って逃げてほしい。そう言っても何も変わらないことを私も彼もよく解っていた。
私の力が消えてなくなる前にどうしてもまた彼に会いたい。そう思った。
「いつかまた会いましょう。私の体やあなたの体ではなくなってしまうけれど、また必ず」
抱擁を交わすことすら許されないまま、彼は旅立っていった。

その遺跡で見つかった土人形は古代にはなにかしらの儀式に使われていたという。もろく壊れやすい物のはずなのに時の重みなど寄せ付けぬように欠けや傷のひとつもないそれをハケで丁寧に土を払い、手袋越しに手のひらに載せる。奇妙な既視感と幻視がここをどこであるかを惑わせて、私は見覚えのある少女の前に立っていた。一目見て、あのひとだと判った。
「ずっと、待っておられたのですか」
「ええ、神様が離してくれなかったの。でも、見つけてくれたのね」
戦に向かう前、幼きそのひとのことをどれほど胸に抱きたかったのかを思い出して衝動に駆られるように腕を伸ばした。思いのほか小さく華奢な体におそろしくなって壊れないように抱きしめる。
「また会えました。あなたの言った通りに」
「そうよ。だから、また会いましょう。必ずね」
うれしそうに言ったあのひとは悲しげに儚く消えた。遺跡の跡にいたのは私ただひとりで、手のひらに載せていた土人形はもろく壊れやすいもののように砕けていた。知らず流れた涙を不思議な気持ちで拭いながら、私は胸に残った言葉を思い返していた。

11/14/2024, 4:43:56 AM