No.203『とりとめのない話』
───そう。だから僕はとても後悔したんだ。
彼は目を伏せてそう言った。
その顔は別に自分の運命を悲観しているわけではなさそうだ。
───…ああ、思い出した……。ふふ、彼女に早く会いたくなってきたよ。だから僕は行くね。こんなとりとめのない話を聞いてくれてありがとう。
その言葉を最後に彼はその場からすっと消えていった。
彼の大切な人は事故で帰らぬ人となってしまって、そのことを彼はずっと後悔していたらしい。
あの日、送り出さなければ…、自分もついていっていれば…、そんなことをずっと考えて考えて考えた末に彼は自ら自身の首を縄に括った。
全ては彼女に会いたい一心で。
でも運命は残酷だった。彼が命を絶って霊と化した時、彼の彼女との記憶は失われていた。
自分が何を失ったのかわからないまま、それでも大切な何かを探してひたすらこの世を彷徨い続けた。
ねえ!!返事をして!!どこにいるの!?
そんなことを叫びながら、涙を流しながらずっと。
その様子を見かねて話しかけると彼はぽつりぽつりと話し出した。
そうしているうちに彼は思い出せたらしい。
彼の彷徨い続けた100年間は無駄ではなかった。
彼と彼女の幸せそうな様子を思い浮かべると自然と笑みが溢れた。
どうかあの世で2人の幸せが訪れますように。
12/18/2024, 8:08:24 AM