明永 弓月

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 仕事を終え会社を出るとすっかり暗くなっている。建物の中にいるうちに日は沈み、帰宅する頃の空は闇色だ。少し前までは薄手のコートでも問題なかったが、すっかり寒くなってしまった。マフラーを巻き直す。
 夏の夜とは異なり、どことなく寂しさを感じる。冷たい空気によるのかもしれない。
 このまま真っ直ぐ帰るのは何となく躊躇われた。

 乗り換えもしないのにターミナル駅で途中下車する。定期券の範囲内なのをいいことに改札の外に出た。
 昼休みに眺めていた記事がイルミネーション特集だった。
 駅前では電飾が輝いている。駅舎を出てそれを眺める。写真を撮っている人も少なくない。撮影を頼まれればそのたびに了承する。
 明るい場所であれば気分も変わるかと思った。ベンチに腰を下ろす。コートがあるからマシだが、寒空の下のベンチは尻から冷えていきそうだ。コーヒーショップで飲み物を買うのだったかと考えるも、長居するつもりでもないと脳内の自分が首を振る。
 イルミネーションは綺麗だ。しかし、ひとりだからだろうか、虚しさは消えない。かといって、人を呼ぶあてもない。SNSへの投稿もそんな気分ではない。着いたときに写真を撮ったのを最後にスマホは鞄にしまわれている。

 ――隣にあなたがいればいいのに。

 気が付けば単純なことだった。呼び出せる距離ではないから、端から考えないようにしていた。
 メッセージアプリを開き、先程撮った写真とともにメッセージを送る。


 イルミネーションは綺麗だ。
 あなたと見られたら、もっと綺麗に映るだろう。



12/14/2024, 11:17:26 AM