『秋恋』
「秋恋って聞くと少し寂しい感じがするかも。落ち着いて大人な恋愛かとは思うんだけど」
恋と言う単語にどきりとした。
「じゃあ夏は?」
「ザ・青春。恋愛に真っ直ぐで汗が光輝く若い恋…?」
若い恋ってなんだろう。君は自分で言っておきながら首を傾げ出して目をつぶる。
「秋空や秋雨なんてのは聞いたことあるけど、秋恋っていう単語は耳にしたことがないな。言葉遊びかい?」
「ううん、今読んでる本に秋恋って言葉が出てきたの。物語の中で詳しく説明されてなくて、少し引っ掛かっちゃって。私の中で使い方を考え中…」
最近買ったガラスペンが午後の日差しを反射してノートを色付かせている。秋とは、恋とは。連想ゲームのようにチャートが広がっていた。君の中でしっくりくるものがなかなか探せないようだった。
ガラスのペン先が別の色を吸う。紅葉色のインクで秋恋と書いて「あ」と言った。
「閃いたの?」
「なんで寂しいって思うのか分かった。夏が暑すぎて秋になったとたん急に冷え出すからだ。温度差が原因かも」
「恋が落ち着くってことかな。2人の付き合い方が板につく頃…それは穏やかなことじゃないか」
「あとは目移りしやすくなったり…」
聞き取れるギリギリの声量で言う君は何か隠し事をしているらしい。恋が云々と2人で考えていたというのに穏やかじゃなくなった。
「…へぇ。目移り?」
俺以外に?とは言わない。
「それはどこにいるんだい?」
返答次第でこの後の行動が変わるから、努めて冷静なフリをして君から情報を得よう。
「えっとね…」
ノートの後ろのページからこそりと取り出す。写真かメモか。用紙は何だって構わない問題は中身だ。紫いものケーキと南瓜のケーキがそれぞれ写っている。君が好きそうなスイーツ。
「紅葉のインク見てたら思い出して、どっちも食べてみたくてね…」
2枚のクーポン券を大事に取り出して恥ずかしそうに言う。
君って子は…!
「恋よりも食欲じゃないか」
「えへ」
俺の嫉妬は短時間で終わり、肩の力が抜けてしまう。
「頭使ったから甘いもの食べたいな」
「連れてってね」と甘えられれば君に弱い俺は快諾してしまう。俺以外、物くらいなら見逃すよ。
9/21/2023, 11:33:34 PM