ほろ

Open App

「それじゃあ、お先に失礼しますね」
先輩が立ち上がったので、私も合わせて席をたつ。

もう会社には私たちしかいなかった。残業大好きな先輩と、年始の仕事を減らしたい私しか。
先輩が帰ると言うのだから、本来なら私も一緒に帰って節電に貢献すべきなんだろうけど、まだ仕事が終わらない。
「お疲れ様です。今年もお世話になりました」
とりあえず、挨拶しながらお辞儀をする。
「こちらこそ、ありがとうございました。来年もよろしくお願いしますね」
「はい、お願いします。良いお年をお迎えください」
「あなたも、良いお年を」
ふ、と微笑んで、先輩は私の手に飴を握らせてきた。
「無理しないで、早めに帰るんですよ」
「はぁい」
そういうところだぞ、先輩。
ぐ、と飴を握りしめ、良い子の返事をする。
先輩が見えなくなったのを確認して、もう一度席に座った。
「よし。あともうちょっと」
飴を口に放り込む。
先輩の飴があれば、きっと良い年を迎えられる。そう思いながら。

12/31/2023, 12:45:12 PM