キムチ鍋を山盛り食べ、締めのうどんも飲むように食べ、ルビンの土産のアイスを食べて、シンヤはこたつに入ったままコロリと転がって眠り始めた。無限の体力がある年代で、この速度はまずい。もっと運動とかさせて体力をつけさせた方がいいのではないか。なんか、プールとかにほりこんで。
「促す? あったかね、こんな田舎にジムとか」
「わからん」
ぐわりとあくびをすると、ルビンは散らかった缶の向こうでコップ酒をあおりながら、老人! とからかってきた。そのとおり、人間からしたら考えられない年代だぞ俺は。
「で、何しにきた」
「雪を見に」
「うそつけ」
「ほんと、半分は」
細められた眼のうさんくさいこと。まあ声のトーン的に、本当に半分は雪を見にきたのだろう。この男にかかればどこの街のどんな景色も見られるだろうに、わざわざこの町に。
「本題は」
「シンヤのこと」
俺とルビンがこたつ机を挟んで向かい合い、俺の右手側にシンヤの頭がある。目をやると、閉じられた瞼がこちらに向いていた。ガキの頃から寝顔が変わらない。
「このまま手元に置いておくつもりなのか?」
「どういう意味」
「このまま、青年期の人間を飼い殺しにするのかってこと」
ルビンのいる協会、稀少生物の保護だか共生だかの団体の対象は、絶滅が危ぶまれる生物のみ。人間のシンヤはそこに入ってこない。
シンヤが生まれて、しばらくして孤児になったとき、ルビンはしつこく俺を説得した。今のうちに手放した方がいい。その方がその子のためだ──それに最初頷かなかったの理由は意地もあるし、なんとも説明しがたい。それでも一度手放して、それでもまた手元に戻した。小さい人間の集団の中、見たことない顔で固まっているシンヤをそのままにしておけなかったし、その後まる三ヶ月は口がきけなくなった彼を二度と手放そうとは思わなかった。
飼い殺し。
言い得て妙だ、と手元の酒をあおる。シンヤの行動範囲は、この町の歩いていける範囲のみ。スーパー、図書館、それからなんだろう。わざわざ山手の、子どもの集団がいるような場所を避けた住処だ。
学校に行きたいだなんて、言い出したら困るから。
「協会はシンヤを引き取る。教育も仕事も与えられる」
「前それでどうなったか、忘れたか」
「あの頃、この子は小さい子どもだったろ。事情が違うよ」
「違わないよ」
まっすぐ俺の目を見てくるルビンの、その目尻にシワを見つける。こいつも歳をとった。小さいシンヤを誘拐して逃げまわった俺を、半年かけて見つけだして協会の保護下に戻した、その時の勢いと若さはもうない。プライベートは知らないが、子どものひとりやふたりいるのかもしれない。
「ユキ」
ルビンの後ろ、カーテンがたわんで、ちょうど夜空に浮かぶ月が見えた。冴え冴え輝く三日月。なああれ今日食べたパンに似てるよなと、腕の中の虚な目の子どもに話しかけたあの日々。
「シンヤには権利がある。どこに行くか、何を学ぶか、どう働いて生きるか。あのころの弱い子どものままじゃないよ」
「……」
「その選択肢を渡さないで、そのままずっと囲っておくのは、傲慢だよ」
知らねえよ。
そう言って笑ってやれればいいのに、どうにも上手くできなかった。
1/9/2026, 6:44:12 PM