かたいなか

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「3ヶ月前、2月7日に『どこにも書けないこと』ってお題なら来てたな」
あと去年の6月5日が「誰にも言えない秘密」だったわ。某所在住物書きは過去のお題を辿りながら、秘密系のネタの物語展開を、なんとか絞り出していた。
二人だけの秘密を、ずっと守り続けて数十年。
二人だけの秘密が、ワケあって今は「一人」。
二人だけの秘密の、暴露や漏洩。 他には?

「ガキが二人して『秘密だよ!』で、高校まで内に秘めて秘密自体を忘れてる、とか書きやすそう」
物書きは言った。
「あとは、なんか稲荷神社の不思議な狐とかから、『二人だけの秘密』って、何か授かるとか?」

――――――

当時「二人だけ」から始まって、去年共有者が一人増え、今年になって四人の秘密になったハナシ。
昔々、まだ年号が平成だった頃、だいたい8〜9年くらい前のことになりますが、
都内某所に附子山という雪国出身者がおりまして、
近々、藤森になる予定でした。

結婚して藤森姓になるのではありません。
養子として藤森姓に迎えられるのでもありません。
でも、附子山は合法的に、藤森に改姓するのです。

「よぅ。附子山」
舞台は秋の某深夜営業対応カフェ。客が比較的少なくなった店内の端っこ、テーブル席。
附子山はぼっちで座っていて、頼んだホットコーヒーはすっかり冷え切っており、
「またこの時間に来てたのか」
その元ホットコーヒーを、少し年上の宇曽野という男がフラリ相席して、一気飲みして、
再度、同じものをふたつ、頼み直しました。
「加元から食らった心の傷は?まだ致命傷か?」

附子山の親友で、長い付き合いの宇曽野。
附子山が最近初恋を経験したのも、その恋人の名前を「加元」というのも、この加元がリアルで附子山に愛と好きを囁きながらSNSで附子山をディスり倒していたのも、そのくせ附子山への執着が強火なのも、
全部、ぜんぶ、附子山から聞いておりました。

そして附子山の心と魂をズッタズタに壊した執着強火な「元恋人」、加元から逃げるために、目立ち過ぎる「附子山」の名字を捨てることも。
二人だけの秘密として、聞いておったのでした。

「宇曽野。私の改姓手続きのことは、時が来るまで、本当に二人だけの秘密にしておいてくれ」
「お前、あんなに『附子山姓は私の宝物』って」
「その『宝物』を持ち続けたまま東京に居続ければ、どこに私が逃げようと、加元さんは私を探し当てる。あの人との『すべて』を切るには、どうしても」

「本当に変えるのか。よくも、まぁ」
「手続きは前々からしていた。申し立てが通れば、今までの『私』と、私の世界はそれで終わり。……終わったら、お前の職場にでも、世話になろうかな」

なんともないよ。もう私の心は平坦。正常さ。
ただこの秘密だけ、お前が守り通してくれれば。
附子山はそんなことを、ポツリ、ぽつり。
新しく運ばれてきたホットコーヒーで喉を湿らせて、深い深い心の傷に曇りかげった瞳で言いました。

宇曽野もコーヒーカップに口をつけて、離して、
この清く真面目で根は優しい雪国出身者の魂の傷が癒えるのはいったい何年後になるだろうと、
長い静かなため息を、ひとつ、吐きました。

その後「附子山」は「藤森」となり、長い間二人だけの秘密は「二人だけの秘密」であり続け、
2023年7月の20日頃に、ひょんなことから藤森の職場の後輩に附子山姓がバレて、今年に入ってもう一人、付烏月という男に秘密が開示され、
先々月から、附子山の「元恋人」が附子山を追って職場に乗り込んできておるのですが、
ぶっちゃけ、過去投稿文参照のスワイプがただただ面倒で仕方ないので、
「現在藤森の心魂はだいぶ元気になりましたが、昨今の高温のせいでデロンデロンに溶けています」とだけ結んで、このおはなしを終わろうと思います。
しゃーない、しゃーない。

5/4/2024, 4:10:23 AM