『あなたへの贈り物』
手帳型ケースにに入れたスマホを開いた。
アドレス帳から、あなたの名前を検索して削除ボタンを押す。次はメッセージアプリを開いて、履歴を辿った。
最後の日付は五日前。スクロールして履歴をひたすら辿る。まだ付き合っていない頃の会話。
「もし週末空いてたら飯行く?」
「行きます。土日、どちらも空いてます」
そんな会話が最初の会話だった。
始まりは何度もある。
メッセージのやり取りを始めた日。
付き合い始めた日。
スケジュールアプリを一緒に使い始めた日。
一緒にランニングを始めた日。
一緒に朝活を始めた日。
始めないまま終わったものもあったし、あなただけ終わったものもあった。私は今でもスケジュールアプリを消せないし、ランニングを続けているし、朝活も……。
あなたが終わらせたものはたくさんあるけど、あなたが1番終わらせたかったものは、私との関係。
あなたの優しさに甘えて別れられずにいた。別れたいと言えないあなたに、私が最後に贈るもの。それは全てを終わらせること。
始まりは何度もある。
あなたの終わりはたくさんあるけど、私の終わりはまだない。終わらせることができずにいてごめんね。
あなたと始めたものに関連するアプリを一つずつ消していく。最後に残ったのはメッセージアプリだ。削除のボタンを押す指が震えて、一瞬躊躇した。長い爪がコツリと画面に当たる。
これで終わりにする。あなたと始めたもの、全て終わりにする。
──あなたへの贈り物は「サヨナラ」
(完)
1/22/2025, 2:32:37 PM