帰ってきたら飼い猫がいなかった。
扉も窓も、すべて閉まっていたのに、家のどこを探しても見つからない。
名を呼んでも、物音ひとつ返ってこない。
外はすっかり暗くなっていた。
それでも私は、靴を突っかけて家を飛び出した。
うちの猫は、もう先が長くなかった。
このところ食も細く、毛並みに元気もなかった。
――もしかしたら、死に場所を探して、自分からどこかへ出て行ったのかもしれない。
夜の町は、探しものをするにはあまりに不向きだった。
それでも、じっと家にとどまるなんて考えられなかった。
猫の姿はどこにもなかった。
塀の上にも、植え込みの影にも、灯りの消えた家々の隙間にも。
ただ時間だけが、ひたひたと過ぎていった。
そのとき、不意に――ガタンゴトン――と、電車の音が聞こえた。
こんな時間に?
もうとっくに終電は過ぎている。
車庫へ向かう回送列車だろうか……?
だが、そもそもこのあたりに線路はない。
不思議だったが、恐ろしさはなぜか感じなかった。
その音に導かれるように、私は音のする方へ足を進めた。
やがて、やわらかな光がにじむように浮かび上がる、小さな駅舎が見えてきた。
架空のようで、現実のようでもあった。
――あっ。
思わず声が漏れた。
駅舎の灯りの中を、見覚えのある小さな影が歩いていく。
あの歩き方、あのしっぽ――まぎれもなく、うちの猫だった。
私は駆け出した。
ホームには、夜の闇に溶けるような深い青の列車が静かに停まっていた。
車体の窓には、星々のような小さな灯りがきらきらと灯っていた。
猫はその列車の扉から、ふわりと中へと入っていった。
私も、迷わず飛び乗った。
テーマ:星を追いかけて
7/21/2025, 11:32:12 AM