Ryu

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現場に駆け付けると、一台のトラックが横転していた。
バイパスの直線道路。
他に、接触したような車両はない。
まずはトラックの運転手に事情を聞いてみる。

「これは…いったい何とぶつかったんです?ガードレール?」
「ガードレールになんか触れてもいませんよ。突然横から何かがぶつかってきたんです。それで横転しました」
「他の車ですか?で、その車は走り去ったと?」
「いいや、ここを走ってたのは私だけだった。他の車は一台も走ってなかった」
「ん?じゃあ、動物か何かですか?」
「違いますね。あれはたぶん…SLだと思います」
「SL?…蒸気機関車?」
「ええ。確かに、石炭の匂いもしました」
「だって、ここには線路は走っていませんが…」
「そうなんですが…おまわりさん、この場所の過去を探ってみてもらえませんか?もしかしたら…」

ビンゴ!だった。
過去に、あの場所には線路が走っていた。
今は廃線となり、その上を横切るようにバイパスが作られたが、過去にはSLが走っていたこともあったらしい。
だが、それと今回の事故とどう関係する?
SLが走っていたのは遠い昔の話。
あのトラックを横転させたのがSLであるはずがない。

「いや…あながち無い話でもないかもな。」
話を聞いた同僚警官が言う。
「何がだよ」
「あの場所にさ、未知の交差点があるってこと。そして、タイミングによって、今回のような事故が起こる」
「何言ってんだ、お前。過去のSLと事故を起こすわけないだろ」
「じゃあ、あのトラックは何とぶつかったんだ?」
「いや、それは…」
「仮定の話だよ。でも、今回調べたことがそれを物語ってる」

俺は現場に戻った。
一人、バイパスの歩道で佇む。
しばらくそうしていたら、どこか遠くから、汽笛の音が。
―そんなバカな―
かすかに、列車の走行音が聞こえてくる。
そしてそれは、次第に大きくなってくる。
―ヤバイ―
音が目前に迫ったところで、咄嗟に脇に飛び退いた。

轟音。風圧。そして、石炭の匂い。
何かが目の前を通り過ぎてゆく。
黒く、巨大な車体。
そしてその車窓から、私を見下ろすたくさんの乗客の顔。
生気のない、虚ろな表情だった。

警察の判断としては異例のことだが、後日、この場所で慰霊式が執り行われることになり、また、道路の片隅に慰霊碑が建てられることになった。
過去、この場所で蒸気機関車が脱線事故を起こし、たくさんの乗客が亡くなっていた。
それをきちんと供養せず、時が流れて事故が風化された頃に、このバイパスが作られた。
これを放置すれば、また今回と同じような事故が引き起こされるだろう。
あの乗客達が浮かばれることもなく。

「それにしても、よくお前の証言が認められたよな。クスリでもやってんのかと思われそうな話だけど」
「まあ、あのトラックの事故はどう考えても不可解だったから。認めざるを得なかったんじゃないのかな」
「お前も、必死で署長に訴えてたもんな。すごい熱量だったよ」
「ああ…あの時、乗客達の想いが一斉に伝わってきたんだ。想いは皆一緒だった。『降ろして!』って」
「そっか…彼らも、やっと終着駅に辿り着けたのかもな。お前のおかげで」

ある晴れた秋の日、俺は再びあの場所へ向かい、まだ新しい慰霊碑に手を合わせ、花束を供えた。
どこか遠くの方で、最後の汽笛が聞こえたような…気がした。

10/12/2025, 1:31:03 AM