「夜空を駆ける」
あなたと初めて見た夜空は、病室の窓をおおうカーテンの中だった。
カーテンを開けると廊下のわずかな明かりが外に漏れてしまうからとあなたが教えてくれて、少し小さな窓から夜空を見上げた。遠くの街の明かりは早々に落ちて、山肌に建てられたホテルでは星観賞会が行われている。
入院していた私とあなたは星を見に行くことができなくて、でもその日は一年に一度の大切な日だったから、どうしても星が見たかったのだ。
「星、見える?」
となりにいるあなたがそう聞いてくれる。ガラスが反射して外の景色はあまり見えなかったけれど、見える、と言った。
お母さんが持ってきてくれた毛布にふたりでくるまって、星が流れるのを待つ。死んだ人は星になる、星が降る日は、亡くなった人が還ってくるのだ。まだ大切な人の死を見たことはないけれど、流れ星を見ていると、少しだけ胸が苦しくなる。とても美しくて、輝いているのに、名前のない星が空を駆ける夜。
「次はお外で一緒に見られたらいいな」
ガラス越しじゃなくて、夜の空気を感じながら、ふたりで毛布にくるまって。その時にあなたに伝えたいと思った。退院してはなればなれになっても、私と一緒に遊んでくれますか?
2/21/2025, 11:23:53 AM