ほろ

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ぎぃぃぃ。
通り道の公園から、錆び付いた音がした。
使う人がほとんどいない場所だから、風でも吹かない限り音すらしないはず。
興味本位で公園を覗くと、あたしの店に毎日来ていた少年がブランコに座っていた。そういえば最近は店に来てなかったな、と思う。ぎぃぃ、と錆び付いた音がまた響く。
「おーい、少年!」
声をかけると、少年はパッと顔を上げた。ブランコから立ったり座ったりと慌てて、足がもつれてその場に転ぶ。
途中まで近寄っていたあたしは、少年の傍に駆け寄った。
「おいおい、大丈夫か君」
「あ、はい、すみません。大丈夫です」
膝についた砂を払い、少年は顔色をサッと変えた。
「えっと、あの、ごめんなさい。僕、その」
「何に対して謝ってるんだ? むしろ、あたしが声をかけてごめんなんだが」
「そっ、そうじゃないんです……あの、最近行けなくて」
「ああ、そのこと」
別にそれが何だって話なのだが。人には都合ってもんがあるから、毎日来れる方が珍しいのだ。
とはいえ、確かに理由は気になる。
「あたしのケーキに飽きた?」
「いえ! そんな訳ないです! お姉さんのケーキ大好きです!」
「じゃあ……何?」
「その…………」
ぽつり。何事かを呟いたが上手く聞こえなかった。
……ばなんです、と。ば、なんです。…………虫歯?
「アッハッハッハッハッ!」
「わ、笑うことないじゃないですか!」
「あはっ、はー、すまん……そりゃ、毎日ケーキを食べりゃあそうなるな。あはは」
「だっ、だから、その、しばらく行けなくて」
「うん、うん、分かった。それじゃあ、虫歯が治ったらまたおいで。特別なケーキを作ってあげるから」
少年の目が期待でキラキラ光った。
うん、やっぱりこの目が好きだな。早く虫歯を治してくれよ。

2/1/2024, 1:47:50 PM